第二回 「科学とニセ科学」

1 日 時   9月15日(土)午後2時30分から4時30分
2 場 所   cafe SOURCE (カフェ・ソース)
(鳥取市弥生町227 グレースビル本通り2F 電話 0857-21-3457)
3 講 師   大阪大学サイバーメディアセンター. 菊池誠教授
4 受講者 39名
5 内容 
菊池先生より,
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科学のようで科学ではない、そんな「ニセ科学」が世間にはびこっています。おなじみの血液型性格判断からマイナスイオンやゲルマニウムから、あやしい水やあやしい教育法やあやしい医療まで、その種類もさまざまです。また、あやしい科学は教育現場や環境運動などにも侵入して深刻な問題を引き起こしています。その一方、世の中ではスピリチュアルが大人気。日本中が非科学と非合理の世界へと向かっているのでしょうか。我々はどのようにニセ科学とつきあっていけばいいのか、参加者のみなさんと議論できればと思います
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配布資料 http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/nisekagaku/gifu200704.pdf

6 講演内容
以下は聞き書きのメモです。
○ ニセ科学
「疑似科学」,「似非科学」とも呼ばれ,科学であるかのように装っているが,実は科学とはよべないものを指す。見かけが「科学的」で,一般の人には科学と区別がつかない(これが重要)。しかし,専門家には科学に見えない。
心霊現象やオカルトなどは別扱いで,そもそも科学に見えないが,その境界はあいまいである。

代表的な日本でのニセ科学の例
「普通でない水や還元水」,「マイナスイオン」,「血液型性格判断」,「水からの伝言」,「百匹目のサル」,「ゲーム脳」,「天皇家のY染色体」,EM菌等
進化論を否定する創造論科学(進化論否定)はキリスト教国アメリカでは深刻で,創造論も進化論と同等の科学であるとして,進化論を学校教育の場で教えることを制限する法律、いわゆる反進化論法に対する一連の裁判「スコープス裁判(1925)」や,ルイジアナ州の授業時間均等化法裁判(最高裁で無効とされた(1987))がある。 

あるある捏造事件
いくつかの学説を適当につないだ新説が出されている。しかし,勝手につないだものは学説ではない。インタビュー内容の捏造や実験データの捏造があったが,考えるべきことは,捏造だったからいけないのか,ということ。捏造だけを問題にするのは問題の矮小化である。

個人的問題提起
オウム真理教事件が問いかけたものは,オウムの科学技術省の村井秀夫は阪大物理修士出身である。専門的な科学教育は合理的思考を育てないのではないか。「ニセ科学的」的言説とオカルト的言説の双方を巧みに使っている。

昔とは違う?
昔は本と口コミだったが,今はテレビとインターネットで情報が伝わる。
「あるある系テレビ番組」,ネットによる大規模「口コミ」がそうであり,例えばGoogleで「ゲルマニウム」を検索しても正しい情報を見つけることは困難である。

なぜニセ科学が問題なのか
社会的損失(経済的・時間的・人的等)が大きい。リソースは有限で,本来行くべきところに資源が行かない。新製品開発にいくべき物質だったり,環境問題等(効果のないところに無駄使い)に影響したりする。

社会の非合理化
ニセ科学には思考の単純化が見られる。結果のみ重視し,プロセスを軽視している。「よい面」と「悪い面」や「リスク」と「ベネフィット(利益)」の比較をしない。「考えない」社会になっている。ポピュリズムの蔓延がある。合理的思考は民主主義の基盤なのに。

 ケーススタディ:練習問題
○血液型性格判断
ABO式血液型と性格の対応付けは雑誌・TV「あるある大辞典」などでよく取り上げられる。
合コンで気の利いた話題を言えない男の定番ネタは「天気と血液型」である(笑)。
血液型性格判断の歴史は古川竹二説(1927年)による。心理学会で発表(論文もある)された。着眼点は悪くない(ニセ科学ではない)が現在の「血液型性格判断」とは別系統。
最近のものは70年代の再発見から現在へ至る。「血液型でわかる相性」能見正比古と彼の 息子との多くの出版物があり,特にテレビの影響が大きい。彼らは科学者ではない。
現状の理解:心理学の問題としては決着済み。血液型と性格の関連は認められない。
心理学としての調査は繰り返し行われており,否定の根拠はこれだけ(それで十分)。   血液型から性格を言い当てること(またはその逆)はできないし,血液型性格判断が正しいかのように言い続けるテレビはニセ科学である。
・なぜ信じられているか
4分類(A,B,AB,O)という思い切った割り切り:覚えやすく,使いやすい数が4である。遺伝の知識が行き渡っていることや,「血液型は遺伝現象の典型」「血液型は遺伝する」したがって「性格は遺伝しそうだ」という三段論法が信じられやすい。
・まとめ 原理的にありえないわけではない。血液型性格判断が否定されたのは,心理学の調査で関連が見いだされないから。
血液型性格判断に基づく差別:差別は現にある 就職,配属,幼稚園のクラス分け,結婚等。韓国でのB型パッシングは映画にまでなった。血液型性格判断がニセ科学だからだけなのではなく,仮に血液型と性格に関連があってもいけないことだ。

参加者からの質問:A型が几帳面というのはどうか
回答:A型だと思っていた人が,調べてみたら実際はO型だったから,これからはまじめに生きなくてもよいと安心した人がいる(笑)。日本人の4割はA型,O型と合わせると7割になる。

○マイナスイオン
大手家電メーカーがこぞって取り上げ,大ブームとなった。エアコンや,ヘアードライヤー,マイナスイオンコンピュータ「Prius」まで出た。
大手家電メーカーはすでに撤退したが,現代の迷信となっている。
発生方法には,水破砕式(レーナルト効果:帯電した水クラスター。プラスは地面に落ちる),コロナ放電式(大気イオン:酸素に電気がわたる,オゾンも発生),トルマリン(何も発生しない),放射性物質を使ったものもある。
大気イオンが身体や気分に与える影響はわかっていないし,マイナスは身体によくプラスは悪いという理論の根拠はない。また,コロナ放電による集塵や除電は普通の技術である。
「イオンの数と身体に良い」とは無関係,きちんとした話と怪しい話の混在(コロナ放電の効果はトルマリンでは得られない)がある。
コロナ放電は酸素ラジカルを生成し、そこからさまざまな過程を経て硝酸イオンなどになると考えられる。オゾンも発生する。いずれにしても、発生するものはむしろ体に悪そうだが、あまりに発生量が少ないので、毒にも薬にもならないだろう。
「マイナスイオン応用学会」など怪しい学会いくつかあり,派閥がある。大学の研究者も名を列ねているが,批判能力なし。
2002年AP通信社 三洋の技術者報告「マイナスイオンの効果についてはわからないが,害にはならない」
大気イオン専門家の言葉:大気イオンの質量分析結果からマイナスイオンの物質は硝酸であり,プラスイオンの物質はアンモニアであることがわかってきた。
「マイナスイオン体内革命」 山野井登,廣済堂 でたらめな内容で,肩書きは東大医学系研究科・工学博士
ハインズ博士「超科学を切る」:イオン発生器は効果がない,買う価値なし。
・なぜ受け入れられたか
イオンという言葉が科学っぽい雰囲気で「科学」として受け入れられた。
二分法のわかりやすさ:プラスはいいがマイナスは悪い。マイナスがいいという意外性,白黒はっきりしていて科学っぽい,テレビ向き。イオンの数だけで効果が分かる。
・まとめ 健康効果は根拠なし,確実にコロナ放電でも,イオンという言葉が一人歩き。

参加者からの質問:滝のマイナスイオン何か
回答:レーナルト効果。我々は晴れた日のすがすがしい滝しか思わないが,滝そのものがすがすがしいとは限らない。滝の回りにマイナスイオンはあっても,すがすがしいときの水を感じるのであって,電気とは関係ない。

○ゲルマニウム健康食品
ブレスレットなど,身につけるもの,繊維,衣類,ツボに貼る等。
32℃以上で電子を発生とあるが,でたらめ。そんなことを言う学者は誰もいない。多分32はゲルマニウムの原子番号ではないか。
その電子を体内に取り込むと,体内の電位を整え健康によいとあるが,「取り込む」が意味不明,膨大な電子が体内にはすでにあるし,電子と健康の関係が全くわからない。
・まとめ ゲルマニウムが身体によいという迷信は昔からある。今のブームはリバイバルで根拠はない。身につけても何の効果もない。ただ,毒にも薬にもならない 金属アレルギーがない。
ゲルマニウムサプリメントは撮らないほうがよい。身体に必須の元素ではないし,純ゲルマニウムや酸化ゲンルマニウムは腎臓障害を起こす(厚労省の警告より)。ゲルマニウムは光ファイバーの原料として使われている。安くて害にならないものは金になる

○波動
すべてのものは固有の波動(固有振動数)を持つ。これは量子力学の波動とは無関係だが,関係あるかのように主張される。数値が表示されることが重要(10年前に大学生協にも売られていた)である。波動なので固有の周波数を持ち,共鳴する。診断や医療に使えると主張される。
波動測定器MRAとは何か。NMRやMRIとは関係ない。単に電気抵抗をはかっているだけ。
魔法の装置波動測定器 様々な問題に対して一個の数値を出す。例えばある食品は免疫力について21など。数値は絶対的であり,最小値,最大値がある。
中小メーカーが大手との差別のために導入して(大手はやらない)はやっているようだ。複雑な検査をせずに「よい」ことを証明でき,とても便利である。権威者は江本勝氏一人。 以前は他にもいたが,ひとり勝ち? 江本氏は科学者ではない。
言葉だけが量子力学風。専門学会(サトルエネルギー学会)もある。サトルとは「微妙な」 という意味。この学会は批判力を持たないし,何もはかっていないことは彼らも知っている。しかし,なぜそれで計れるのかは議論している。また,「転写できる」という都合のよさがある。

○水からの伝言
水の結晶の写真を集めた本。水に言葉をかけると言葉の内容によって結晶形が変わる。 元々自費出版だがベストセラーになった。
氷の先に水蒸気が張り付いて成長する気相成長の写真である。水を凍らせる前の瓶に文字を書いて見せている。世界中で売れている(すぐれた日本発のオリジナル(笑))。
こんなことにも実験しないといけないという科学者がいるので困る。そんなナンセンスな世界に我々は生きていない。物質に言葉の意味が影響を与える,そんな科学は今までにない。はじめから否定できる。
小学校の道徳の授業で使われているのは大きな問題だ。TOSS(教育技術法則化)では,「人間の身体の大部分は水であり,体内の水が言葉に反応するので,よい言葉を使いましょう」と言っているが,これは論理の飛躍である。明白に非科学的であるものを事実であるかのように教える。笑い出す生徒もいた。疑問の声をあげた生徒が怒られた。一本道のストーリーなので否定されると教師は困る。一定の価値観以外は認めない,不寛容な態度である。 
道徳の根拠を物理科学に求めてはならない。道徳は文化や習慣で決まるが,科学は普遍的で不寛容。科学の乱用である。
熱心な先生が引っかかる。しかし,動機は不純でない。授業崩壊やいじめを何とかしたい,という動機は否定できない。少なからぬ数の教師が信じてしまった。比喩や寓話として扱われているのではない。教師の理科離れも関係しているのでは。善意の関係するニセ科学は否定が難しい。

○道徳と躾
ゲーム脳 日大の森昭雄のゲームしすぎると脳が壊れるという説。造語。科学的根拠は何もない。子供のゲームに手を焼いている親や教師に受け入れられている。道徳も躾も自然科学で基礎づけようというニセ科学。

参加者からの質問:水の結晶を授業で使おうという同僚がいたが,毎日新聞「理系白書」が出たので助かった。
回答:信じている生徒に対して親は伝えづらい。先生を否定せずに伝えるのは難しい。先生の評価を下げるのはよくない。その先生がごめんねというのが一番ハッピーになれる。

参加者からの質問:音楽熟成をニセ科学だと思うが大学の先生のコメントが付くと信じてしまう。
回答:お酒は大音量でヘベメタだとおいしくなるかも。
植物に音楽を聴かせても意味はないが,作っている側には効果がある。学者はそう言ってはいけない。そうしていいか分からない。そんなナンセンスなことを言う科学者はだめ。モーツァルトを聞いたからおいしいという付加価値で科学的な説明をするのはよくない。

参加者からの質問:ゲーム脳についてのチラシが家に来た。
回答:論文は森さんのが一本あるが学説として出ていない。NHK出版から出た本のみ。あれはナンセンス。保健室頼りが各家庭にも配布されることがある。

○水
なんとか還元水,一本500円のミネラルウォーター,異常に高い浄水器,磁気「活水器」等。水商売は脅し・嘘を付くことが特徴。水道水を飲んでいると,明日にも病気になるかのように脅して不安を募る。日本の水道水は,世界でも有数の安全な水,安全基準はミネラルウォーターよりも厳しい。
カルキが気になるなら,「普通の」浄水器でよい。磁気も遠赤外線も水の性質を変えない。
磁石で水道管の汚れはとれるという報告がある。ただし安い磁石でも同じ。水道水以上の健康効果は期待できない。所詮水。何かあるのかは知れないが,何十万という磁石を買う必要はない。また,たかだか水を飲むことで健康になろうと思ってはいけない。水を飲みすぎると体液のイオンバランスが崩れて腎臓に負担がかかる。活性水素は科学的にない。

○あまり知られていない検証
科学とニセ科学の検証,ニセ科学の多様性,血液型性格判断。
ニセ科学者も多様で,一番たちの悪いのは昔科学者だった人。善意の間違いもある。フリーエネルギーでエネルギー問題を解決しようとする人もいる。善意のニセ科学はやめて欲しい。

○境はあるが
左巻氏は初めから原料が安全だから(例えば日本の水道水)商売ができる。それで事故がおきることはないので,効果はわかりにくいし訴えられない。
境はあるがグレーゾーン問題:科学とニセ科学のあいだにもはっきりした境界を引くことはできない。評価の分かれる問題はいくらでもある(グレーゾーン)。しかし,多くのニセ科学はグレーゾーンではなく,「誰が見てもニセ科学である」

間違いはニセ科学ではない。科学に間違いはつきもの。単に間違っているだけではニセ科学ではない。科学の手続きに従った上での間違いは単なる間違い。

メカニズムや理論ではない。「メカニズムが分からない」からと言ってニセ科学とは限らない。例;臨床的に効果が確認されている漢方薬

ニセ科学がなぜ受け入れられるか 
・科学的意匠と敷居の低さ
・わかりやすさ・思い切りのよさ

願望充足
・信じたいと思うことを提示してくれる

一方科学は・・
 本来あいまいなもので,断定することはほとんどない。留保条件をつけて歯切れが悪い。 一般には白黒はっきりつける方が科学的と思われているのかも知れない。
希望とは関係ない。希望は叶うかもしれないし叶わないかも知れない。叶える努力はするが,一般的に科学の方が分が悪い。

○パブリックイメージとの差
科学は白黒はっきりつけてくれ,あいまいなことを言わない。実はそれは「ニセ科学」の特徴で,科学よりも科学っぽい。
科学では答えられない問い(人生の意味)などにも答えてくれる。

○「説明」についての誤解
「説明ができればいい訳ではない」。波動も前世も説明原理にはなる。どんなものでも波動で説明できる。他の知識との整合性。未知の現象に対する予測力。予測力を気にしないなら,どんな説明もできる。

○比喩と事実
言葉にはエネルギーがあり,それが水の結晶に影響する,という説は,言葉にはエネルギーがある,は本当。ただし比喩的意味。
エネルギーが結晶に影響する,は,ただし物理的エネルギーなら。
前半は比喩で,後半は事実と混同している。個人的体験は主観的には事実・

参加者からの質問:ニセ科学はどう情報を集めるか。
回答:目に見えるものしか見ていない。
十把ひとからげ(マイナスイオン等)