第38回:3800系

 窓枠がアルミサッシ化されているものの、晩年までほぼ原型を保ったモ3835。2輌目のTcはク2818で、製造年の違いからベンチレーターに差異が見られます。 名古屋本線鳴海駅。 1985(昭和60)年7月11日撮影。 

 太平洋戦争敗戦後の混乱期は、国私鉄を問わずどこの鉄道でも深刻な車輌不足に悩まされていました。名鉄では1946(昭和21)年に運輸省(→国鉄)のモハ63形電車20輌の割り当てを受け、初代3700系として就役させます。しかし、初代3700系は車両限界の関係から新名古屋以西への入線が困難なため、1948(昭和23)年の西部線昇圧にともなう東西直通運転を機に、小田急電鉄と東武鉄道に売却しました(*1)。
 その代わりというわけではないでしょうが、1948(昭和23)年から翌年にかけて運輸省私鉄標準規格A'形車輌(*2)として製造されたのがこの3800系です。Mc(モ3800形)-Tc(ク2800形)の2輌編成が一挙に35編成増備されて、戦後復興期の輸送に大いに貢献しました。なお、1948(昭和23)年製の3801〜3818Fと、翌年製の3819F以降とではベンチレーターの形が異なります。1954(昭和29)年にク2836が増備されて、合計71輌の大所帯となっています。
 昭和20〜30年代には、特急から普通にまで幅広く使用されて(*3)、当時の名鉄の代表的な系列のひとつとなりました。1968(昭和43)年からは支線直通特急などに運用するため、扉間を転換クロスシート化した編成もあらわれています。その一方で昭和40年代には、豊橋鉄道や大井川鐵道、富山地方鉄道など他私鉄への大量譲渡や、7300系への改造によって大きく数を減らしてしまいました。
 晩年は、1500V線区のローカル運用や、築港線で3790系と編成を組んで働くなど地味な運用が目立ちました。1989(平成元)年までに全車廃車となり、他鉄道へ譲渡された車輌も全車が現役を退いています。
 
(*1) 売却された初代3700系は、小田急では1800系(→秩父鉄道800系)、東武では7300系としてその後も長く使用されました。

(*2) 当時の限られた生産能力を最大限に活用するため定められた規格で、いくつかのパターンがありました。この規格にもとづいて製造された電車として、東急3700系(→名鉄3880系 第26回)、東武鉄道5300形、西日本鉄道303系などがあります。余談ながら21世紀の今日、製造コストの面から東急、相模鉄道でJR東日本のE231系を基本とした車輌が製造されるようになったことは、興味深い話です。「歴史は繰り返す」というのは言い過ぎでしょうか。

(*3) 昭和20年代後半期には、当時1067mm期間だった近鉄名古屋線へ、また国鉄飯田線を介して、田口鉄道(後の豊橋鉄道田口線。1968年廃止)まで乗り入れたこともあります。

3800系の略歴 (*判明分のみ)
1948(昭和23)年…この年から翌年にかけて日本車輌でモ3800形35輌とク2800形30輌を、帝国車輌でク2800形5輌を製造。1948(昭和23)年製はベンチレーターがガーランド形2列だが、1949(昭和24)年製はそれを押し込み形2列に変更。当初は2扉ロングシート車として登場。

1954(昭和29)年…輸送機工業でク2836を増備。ベンチレーターはガーランド形1列となる。

1963(昭和38)年…この年から車体更新工事を実施。昭和24年製を中心に、多くの車両が高運転台化、ノーシル化される。

1967(昭和42)年…この年から翌年にかけて、3807〜3809F.3811F.3812F.3814F.3815Fが富山地方鉄道に譲渡される。同社ではモハ14710形、クハ10形として活躍する。

1968(昭和43)年…この年から1970年にかけて、3821F.3827F.3828F.3830〜3835Fおよびク2836が扉間転換クロスシート化される。

1969(昭和44)年…3813Fを豊橋鉄道に譲渡、同社の1721系となる。ク2835は10月に事故廃車。モ3835はク2818と編成を組み、モ3816は電装解除の上2代目ク2815と改番、築港線用にク2815-モ3818-ク2816の3連を組む。

1970(昭和45)年…3805Fを大井川鐵道に譲渡、同社のモハ310-クハ510となる。

1971(昭和46)年…8〜12月にかけて、3801〜3804F.3806F.3810F.3817F.3819F.3820F.3822〜3825F.3829Fが廃車となる。機器類は7300系に再利用し、3822Fおよび3829Fの車体は大井川鐵道に譲渡される。

1975(昭和50)年…3790系(旧東濃鉄道モハ112-クハ212)入線により、ク2815はモ3791-ク2815-ク2791と編成を組み直す。モ3818-ク2816は、本線系へ復帰。

1985(昭和60)年…3月、モ3791-ク2815-ク2791編成廃車。

1987(昭和62)年…9月、3828F廃車。

1988(昭和63)年…3月、モ3835-ク2818廃車。モ3561(第16回)と編成を組んでいたク2836も同時に廃車となる。9月、3830F廃車。

1989(平成元)年…6月、3834F廃車。7月、3831F.3833F廃車。8月、3821F.3826F廃車。9月、最後まで残った3827F廃車。形式消滅。

 豊橋鉄道1720形となった旧3813F。豊橋鉄道渥美線新豊橋駅。 1989(平成元)年2月6日撮影。

 大井川鐵道でクハ510となった後、1986(昭和61)年にオープン車輌のクハ861に改造された旧ク2805。廃車となった現在も、千頭駅構内に留置されています。 千頭駅。 1986(昭和61)9月28日撮影。

 車体のみ大井川鐵道へ譲渡し、大鐵手持ちの機器を組み合わせて再起した3822F。晩年はアイボリーと赤の派手な塗装となっていました。 笹間渡駅。 1993(平成5)年11月22日撮影。 

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参考文献
このページの作製にあたって、以下の文献を参考にさせていただきました。

『名鉄』 白井昭・白井良和・井上広和共著 保育社(1981年初版発行)
『名鉄』 白井良和・諸河久共著 保育社(1989年初版発行)
『まるごと名鉄ぶらり沿線の旅』 徳田耕一著 七賢出版(1995年初版発行)
『鉄道ピクトリアル』1996年7月臨時増刊号 (特集:名古屋鉄道) 鉄道図書刊行会『私鉄電車ガイドブック4』 東京工業大学鉄道研究部編 誠文堂新光社
『名古屋鉄道』(復刻版私鉄の車両11) 飯島巌・白井良和・井上広和共著 ネコ・パブリッシング(1985年に保育社より初版発行。2002年復刻)
『富山地方鉄道』(復刻版私鉄の車両10) 飯島巌・白井良和・井上広和共著 ネコ・パブリッシング(1985年に保育社より初版発行。2002年復刻)
『大井川鉄道』(復刻版私鉄の車両14) 飯島巌・白井良和・井上広和共著 ネコ・パブリッシング(1986年に保育社より初版発行。2002年復刻)