〜中絶してからの話〜






麻酔が覚めて 雪の日のこと 泣いてばかりの日々わかってくれない彼 死にたい そして立ち直り


麻酔が覚めて


先生に一週間は安静にって言われたとおり
手術の日は帰ってすぐ寝た。
麻酔のせいか、頭がボーっとしてたし
朝も早かったから良く寝られた。
次の日目覚めて、頭がはっきりしてきたら
急に現実に襲われた。

私の中にはもう、赤ちゃんがいない

そう思っただけで涙が止まらなくなった。
もうあの子は戻ってこないのだと思えば思うほど
「後悔」の文字が頭に浮かぶ。
心の中で「ごめんね、ごめんね」って思いながら一日中泣いてた。

私が守ってあげるべきだったんじゃないか・・・
何を失ってでも守ってあげなければならなかったんじゃないか・・・

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雪の日のこと


次の日、病院へ検査をしにいった。
前の晩から降り続いている雪の中を歩いて独りで病院へ向かった。
検査の結果は異常無しだった。
検査のあと先生に、「赤ちゃんはどれくらいの大きさだったんですか?」
と聞いたら、「縁のなかった赤ちゃんですから、いいでしょう?」って言われた。
確かにそうかも知れない。今さら聞いて何になるんだろう。
だけど帰り道、雪の中を歩きながら
どんどん涙があふれてきた。

母親にとって、子供を失うということは
こんなにつらいことなんだ
って思った。
雪がまわりの音を吸収するから静かすぎて
こうして独りでいることが不安で
よけいに涙が止まらなくなる。

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泣いてばかりの日々


どうして産まなかったんだろう。
こんな思いをするなら一言でも産みたいって言えばよかった。

今はただ、彼だけが唯一の心の支えだった。
でも手術の日から会ってないし、電話もない。
なんだか私だけ取り残されたようで、不安で、
一日中泣きつづけて、
熱が出てきて、呼吸も苦しくて、吐き気がする。

次の日彼から電話があった。
短い電話だったけど、安心した。
この日はそれから泣かないでいられた。

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わかってくれない彼


食欲がない。何も食べたくない。胃が痛い。
今日も一日泣いてばかりの日が始まる。
毎日がつらくて、寂しくて、すごく長い。

夕方彼から電話があって、一日中独りでつまんないよって言ったら
夜また電話するって言ってくれた。
うれしくて、ご飯もちゃんと食べれた。
ずっとワクワクして電話を待ってた。
ずっとずっと待ってたのに・・・。電話はこない。
さっきまで止まっていた涙がまたあふれ出してきた。
もうとっくにあきらめてた真夜中にやっと電話が鳴った。
だけど友達の自宅の番号を教えてくれって言われて
教えたら、「またあとでね」って切られちゃった。

「またあとでね」って言ったから・・・
だから楽しみに待ってた。
そうして1時間以上がすぎた。
もう待ちきれなくて、私からかけてみた。
彼は寝てた。
友達と電話してたら長話になっちゃったから・・・って言う。
その瞬間涙がどんどん出てくる。

私が泣いてることに気付いた彼はムッとした声で
何泣いてるの?って一言。
あとで電話するって言ったのに寝てたから泣いてるの?って聞かれた。
ちがう。そんなんじゃない。
そんなことで泣いたりしないよ。
そうじゃなくて彼が私の気持ちなんてなんにも考えてくれてないから泣いてるのに。
こんな事、言わなくてもわかって欲しいのに。
今、私が独りで苦しんでることくらい
言わなくてもわかってるはずでしょう?
もう何もかもがイヤで、苦しくなった。

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死にたい


ひたすら泣きながら、気付いたら
携帯を持ってる右の手首を部屋にあったカミソリで何度も切りつけていた。
だけどカミソリには安全装置がついてたから
軽く傷が付いて、血がにじむくらいだった。
電話を切る前に私は何度も何度も「ごめんね」って謝ってた。
彼はおまえが謝ることないって言ってくれた。
自分でもなんで謝ってるのかわかんなかった。
ただ、電話を切ったあとは地に足がついていない気がして
相変わらず涙は止まらなくて
頭の中には「死にたい」っていう言葉しか浮かんでこなかった。
そして何度も手首を切りつけていた。
だけどどんなに頑張っても小さな傷しかできなくて、あきらめた。

次の日も気付くと死ぬことばかり考えていて
今度は果物ナイフで手首を切りつけた。
だけどちょっと怖くて、手加減している自分に気付いた。
死にたいと思いながら、きっとどこかで死にたくないって思ってるんだな。
きっとそうやって傷を付けることで落ち着きたかったんだと思う。

だけどやっぱり彼は私の苦しさをわかってくれてないみたいだった。
わかってるのかもしれないけど、あえて触れないようにしてるようにも見えた。
そう思ったとき、いつまでも泣いてばかりいたら
彼のことも失ってしまうかもしれないと思った。

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そして立ち直り


無理をしてでも彼の前では明るくしていようと決めた。
どんなに泣いても彼はわかってくれない。

そう思うと彼の前では笑っていられるようになった。
ただ、独りでいると突然寂しくなったりした。
やっぱり心のどこかでこのまま死んじゃえばいいのにって思ってて
そうすると食事がのどを通らなくなる。

だけどだんだん前よりは出かけるようになってきて
彼や他の友達とみんなで旅行に行って
すごく楽しくて、そんなに楽しかったのは久しぶりで
やっと少し気持ちが軽くなった気がした。
やっと彼の前で本当に笑えた気がした。

私が明るく振舞っていたら
自然と彼も優しくしてくれるようになった。
いまだに小さな赤ちゃんを見るとつらいけど
いつかまた、私の赤ちゃんに会いたいから
だから頑張って生きていこうと思った。

2001年8月27日
赤ちゃんの誕生日になるはずだった日。
私の胸のIDプレートに刻まれた日付。
ケーキを焼いた。

私は今、確実に前を見て進んでる。
だけどこのことだけは一生忘れない。

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