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Act Call / 間もなく開演 |
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8月5日。水曜日。 作戦が失敗した翌日ではあったけれど、ぼくは普段どおりに学校に行った。 昨日一緒に副司令からお目玉を食らった惣流は休み。 ただでさえ出席日数が不足しがちなぼくたちなのに、惣流のやつ、 このくらいのことで休んでてだいじょぶなのかなぁ。 綾波だって、午後からネルフっていう日でも、2時間目までは授業に出てたり、頑張ってるのに。 まあ、他人事だし、どうでもいいか。 6時間目の数学の授業が終わって、洞木さんの仕切りでホーム・ルームが済むと、 掃除当番でもないぼくはミサトさんちに戻る。 戻ってやることも結局掃除だったりするんだけどね。 「ただいまーっ」って言ってみるけど、もちろん、返事はない。 この時間、ミサトさんはまだネルフで働いてるんだから当たり前だ。 でも、ほんのたまにだけど、何かの都合で家にいることもある。 そんなことも考えて、一応帰宅の挨拶をしてしまう。 帰って来たのに挨拶もしないのっ、ってミサトさんに言われるのはイヤだから。 それに、おかえりなさい、って思いがけず言ってもらえると、ちょっと、うれしいから。
靴を脱いで上がり、キッチンを通って廊下に出る。
すると、ぼくの部屋の前に、今朝はなかったダンボール箱やトランクが山積みになっているのが見えた。
なんだろう?
ダンボール箱からブラがはみ出したりしてるから、ミサトさんのだね。
ネルフに置いてる荷物を、まとめて送りつけてきたのかな。
後で荷解きを手伝わされたりするんだろうなぁ。
めんどくさい。
・・・などと思いながら部屋の襖を開けた。
「なんだこれぇ!」
「失礼ねっ」
「しっかし、どーして日本の部屋って、こう狭いのかしら。荷物が半分も入らないじゃない」 こうして、ぼくのストレス源が、また一つ、増えることになった。 どうしてこう、頼んでもないのに、めんどくさいことばかり降り掛かってくるんだろう。 静かに暮らしたいのに・・・。 |
◇ |
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惣流がここにいる訳は、ミサトさんが説明してくれた。 昨日の戦闘で仕留め損なった使徒は、現在自己修復中で、6日後の再侵攻が予想されるそうだ。 この使徒は、2体に分離したり、また合体したりするので、確実に仕留めるためには、 分離した状態の2つのコアを同時に破壊しなければならないらしい。 そこで、次の作戦では、ぼくと惣流のタイミングを合わせて、 2体のエヴァで2つのコアを同時に攻撃することになった。 ついては、パイロットであるぼくたちの息が合うように、暫く一緒に暮らせっていう話だった。 どうやら、ぼくは馘になったわけではないらしい。 ほっとしたような、残念なような。 惣流がここに越してくるというのは、そういう作戦だっていうことなら、仕方ないのかな。 仕方ないのかもしれないけど、でも、ぼくたち二人にそんなことできるんだろうか。 惣流の物言いはいちいち頭に来るし、惣流の方もぼくをバカにしてるみたいだし。 ぼくが合わせようとしたって、向こうはちゃんと合わせてくれるんだろうか。 あんまりうまくいくと思えないけど。 でも、うまくいかなかったら、どうなっちゃうんだろう。 ぼくも、ミサトさんも。 ネルフも、第3新東京市も。 ミサトさんは、すぐにも練習に入りたかったようだ。 しかし、6日間しかない、とは言っても、6日間もあるわけで、その間もぼくたちは生活しなけりゃならない。 その準備は必要だ。 部屋を追い出されるのはものすごく釈然としないんだけど、ミサトさんに頭まで下げられてしまったので、仕方ない。 仕方ないと思うことにした。 今まで納戸だった部屋を煤払いして雑巾掛けした。 空気を入れ替えたら、なんとか住める気がしてきた。 布団を移して机周りを整理して、お引越し終了。 ところが惣流はまだ荷解きをやっている。 一人であんなにたくさん荷物を持ち込むからだよ。 自分が扱える範囲にしときゃいいのに。 狭い部屋では息が詰まる。 さっきミサトさんから渡された曲を聞いてみようと思って、リビングにヘッドフォン・ステレオとMDを持っていった。 作戦では、この曲のリズムに合わせることで、2体のエヴァのタイミングを合わせるのだそうだ。 Both of You, Dance Like You Want to Win ! by Sagisu, S., 1995. 20年前の曲か。 聞いたことのない人だけど、誰だろう?
ヘッドフォン・ステレオで聞こうとしたところで、ミサトさんが現れた。
ぼくが、「あの、」と言うのと、ミサトさんが「じゃあ、」と言うのが同時だった。 キッチンに向かい、エプロンを着けた。 メニューを決めようと思って、冷蔵庫を検めてみた。 冷凍庫に残ってる肉類でいちばん量が多いのは鶏肉か。メインは鶏料理にしよっか。 歓迎会ってことは、派手な色の料理がいいよね。 鶏肉を解凍してニンニクと塩コショウで下味つけて、 玉ねぎピーマン茄子パプリカをバターとオリーヴ油で炒めて、トマト・ソースとバジル・ペーストで煮込むか。 赤かったり黄色かったり紫だったり緑だったりで、たぶん、楽しいよね。 惣流は、赤が好きみたいだし。 あ、ミサトさん用のサラミが残ってるな。これも切ろう。 ドイツって言えばソーセージだし、サラミも好きだよね、きっと。 サラミのお供といえばキュウリだけど、切らしちゃってるな。 オニオン・スライスで代用するか。 サラダの代わりになるだろうし。 スープは、と・・・。 冷凍の剥きエビがあるな。エビと増えるワカメでいいか。 大根と長ネギも入れて、白ゴマでアクセントつけて、仕上げにゴマ油たらせば・・・って、それじゃ中華料理だよね。 エビと長ねぎをバターで軽くソテーしてからスープにするか。 エビの発色も良くなるだろうし、香りも良く出るだろうし。 仕上げもオリーブ油にすれば洋風になるだろ。 歓迎会なんだから、あと一品、なんか欲しいよね。うーん・・・。 冷蔵庫のものじゃどうにもならないな・・・。となると、缶詰か。 あ、そうだ、コンビーフあったっけ。 ジャガイモの千切りと混ぜて、ガレットにしよう。 こないだミサトさんに好評だったし。 ご飯は朝炊いたのが余ってるんだよなぁ・・・。 でも、もしかして、惣流、ご飯は苦手かな。 コンソメと、ミサトさん専用のブルー・チーズで、リゾットにするか。 食材、何でも使っていいって言ってたし、そのくらい、罰は当たらないだろ。 そしたら、余ってたシメジも入れよう。豪華な感じになるし。 でも、念の為、パンも用意した方がいいかな。 ・・・なんでこんなに一生懸命考えてるんだろ。 歓迎するつもりなんて全然ないのに・・・。
ぼくがパーティ料理を作っている間、ミサトさんは、ダイニング・キッチンのテーブルで仕事をしていた。 料理が一品ずつ出来上がるたびに、ミサトさんに少しずつつまみ食い・・・味見されてしまう。 口が寂しいのは分かるけど、おつまみにナッツとお煎餅出してるんだから、そっちに手を付けてくれればいいのに。 元々ミサトさんのお金で買った食材だから、文句を言う権利はないんだけど。
最後の、鶏肉のトマト煮が仕上がった。
いちばん大きなボウルにたっぷりと盛り付けて、上から粉チーズを振りかけた。
ミサトさんが、仕事の手を止めて、「お~」と、声を上げた。 テーブルの上を拭いて、3人分のナプキンと食器を用意し、ミサトさんのビールを出して待っていたが、 二人が現れるまでには少し間があった。 やがて、ミサトさんが現れ、その後ろから、なにやらブツクサ言いながら、惣流が入って来た。 ところが、そこに広がっている光景を見るや、そのブツクサが止んだ。
ぼくは、 ミサトさんの発声で乾杯して、夕食になった。 近頃ミサトさんは、ぼくの料理を褒めちぎることが多いんだけど、 今日はわざわざ当番を代わらせた引け目があるのか、いつもよりもちょっとお世辞が多かった気がする。 惣流も少し引いちゃってるよね。 ミサトさんに、美味しいでしょ、って訊かれても、まあね、って答えるだけだし。 今日は歓迎会なんだから、料理のハナシはもうその辺でいいじゃないですか、って言って、話題を替えてもらった。
「アスカはシンちゃんに自己紹介したの?」
ぼくが口を開く気配がないと悟ったのか、ミサトさんが続けた。
「ところでアスカ、荷解きはまだかかりそうなの?」 我ながら情けない。 |
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ぼくの部屋は、いや、今や惣流の部屋は、すっかり様変わりしていた。 奥の方に、スチール・パイプとビニールでできた、組み立て式のクローゼットが二つ立ち並んでいる。 窓際に書き物机が入って、その脇と、ベッド・サイドに、引き出し付きのサイド・テーブルが1つずつ。 女の子の部屋、っていう感じは全くない。むしろ、機能的だ。 それとも、この後、ぬいぐるみやらお化粧台やらが出てくるんだろうか。
「そっちの箱から本箱出して、組み立てて」
廊下にまとめられていたダンボールの空き箱を切って板状に重ね、机とクローゼットの下に敷いた。
養生が済んでから、荷解きを手伝った。
惣流がぼくを連れて廊下に出る。
部屋の前に積んであるダンボールを指して、 本だ。
外国語の本がぎっしり詰まっていた。
そりゃ重いはずだよ。
「Evangelion」とか「NERV」とかの単語が書かれているものもあるけど、ほとんどがぼくには全く意味不明。
でも、小説やマンガの類でないことはさすがに分かる。
これらは、たぶん、マニュアルや技術文書だろう。
そんなのが次から次へ出てくる。 惣流を、少し、誤解していたかもしれない。 少なくとも、何の理由もなく威張ってるわけじゃないんだ。 きっと、ものすごく、努力してきたんだ。
「なによあんた、どうかしたの?」 出てきたのは、デスクトップ型のパソコンと、周辺機器だった。 専用の、厳重な包装に包まれている。 大きなダンボール箱に、ハード・ディスク・ドライブが一つだけ、なんていう箱もあった。
惣流は、電源やらその他のケーブルやらをつないでセット・アップに余念がない。
「他に、やることない?」
ぼくが掃除機を掛けている横で、惣流がパソコンを起動している。
もうぼくのすることはなかった。でも、何か話すこと、ないかな・・・。あ、そうだ。
掃除機を片付けてから、ミサトさんに相談しようと、キッチンに向かった。
ミサトさんは、ビールを飲みながら仕事を続けていた。
「家事のことなんですけど、惣流が手伝わないって言うんです」 そうだったっけ・・・。 いつも怒鳴られてるから、良く覚えてないや。
「夕食のとき、呼んでくるの大変だったんだから。
シンちゃんの悪口ばっか言ってて、あいつの作った食事なんて食べたくない、出前取って、とか言ってたのよ?
それがどう? ペロっと平らげちゃって。やっぱ、シンちゃんのお料理はヒトを黙らせる力があるわねー」
「シンちゃんだって、あんまり人付き合い上手じゃないでしょー?」
「アスカの、お兄ちゃんになってあげてくれない?」
「いやあ、それは・・・」 ミサトさん、だいじょぶなのかなぁ。 |
◇ |
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惣流の部屋の襖の前には、 汚い字で“許可なく立ち入りを禁ず 勝手に入ったら殺すわよ”と書かれたホワイト・ボードが掛かっていた。 こういう神経が分からないんだよなぁ。 こんなの書かなくったって、年頃の女の子の部屋に勝手に入るやつなんていないっての。 ・・・まあ、どうしても仕方のない事情がある場合を除いて、だけど。
「惣流いるー? ちょっといい?」
なるほど、いちいちキツい感じになるのは、言葉の問題もあるのかな、もしかして。
良く考えたら、日本語しゃべれるってだけでもスゴいよね。中学生なのに。
字だって、こんな汚くても、一生懸命、漢字も使って、間違えずに書いてる。
やっぱり、本当はミサトさんが正しくて、ぼくは少し誤解してるのかな。
「家の中のこと、少し説明しとこうかと思って」 最初はお手洗い。 ロール紙のストックの場所、予備のタオルの場所、床が汚れちゃったときのための雑巾とか、 そういうことを説明した。 「細かいわねぇ」って、そのうち感謝することがあると思うよ、たぶん。
それからお風呂場。
続いてダイニング・キッチン。
ミサトさんが焼酎のお湯割とサキイカに切り替えて飲み続けながら、仕事の続きをしている。
「・・・そうだ、お茶、淹れよっか?」 よかった、って、思った。 |
| つづく |
| Concertino |