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Coda / 結尾部 |
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8月11日。火曜日。 今日は攻撃の日。 朝6時ネルフ入りだったので、4時半に起床した。 目覚ましが鳴ったとき、ぼくはぐっすり寝ていた。 慌てて起きようとしたら、背中に痛みが走った。 そうだ。寝床をアスカに占領されてしまったので、毛布に包まって部屋の隅に転がって寝たんだっけ。 何日か前のアスカと同じ状態だ。 アスカの心配をしてたクセに、自分が同じことになってれば世話はない。 部屋を見回してみると、アスカはもういなかった。 奥の部屋の襖も開け放たれていて、アスカの布団もなかった。 とっくに起きてたんだね。 急いで布団を片付けてたら、アスカがシャワーを浴びる音が聞こえてきた。
昨日ミサトさん用に揚げたとんかつを使って、かつサンドを作ることにした。
軽く表面をトーストしたパンに、マスタードとバターを塗って、千切りキャベツを敷いて、とんかつを載せる。
ソースをかけてできあがり。
包丁でサンドイッチを切ってるときに、洗濯機を回す音が聞こえてきて、アスカがキッチンに入ってきた。 |
◇ |
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午前6時前にネルフ入りして、ケージ脇のパイロット控え室で待機に入った。 使徒が侵攻を開始した、という一報が入って、エントリーを始めた。 シンクロ・スタートして、ケージで待機。 あとは、ミサトさんのキューを待つだけだ。 ミサトさんに、「二人とも、いい顔してるわね」って言われた。 そうかな。 でも、いつもより、ずっと、自信がある。 弐号機が、アスカが隣にいる。 それが、こんなに心強いなんて、思わなかった。 なんだか、緊張感と同時に、高揚する感じがしてきた。 一生懸命やってきたその成果を、これから試すんだ、っていう感じ。 そうか。コンサートの前とおんなじ感じなんだ。 もう間もなく、アスカとぼくのステージが開演するのか。 演目はピアノ・コンチェルティーノ。 指揮者はMAGIで、ピアノは使徒だ。2体になるから、連弾だね。
使徒が、強羅絶対防衛線を突破した。 ミサトさんの合図で電源ソケットがパージされ、ぼくたちは出撃した。
最初はパターン1-1。
これは予め決まってる。
射出された勢いに乗って、そのまま高空までジャンプ。
そこから零地点にいる使徒を、スピアーで攻撃する。
スピアー自体は誘導兵器で、外す心配はない。
でも、投擲のタイミングが0.02秒でもズレたらアウト。
たぶん、全パターン中いちばん精度が要求されるフレーズだ。
いけるか? 投擲されたスピアーは2本ずつに分離する。 ぼくの投げた方の2本は、そのまま地上に到達し、囮となる。 アスカの投げた方が本命で、2本の間に超音波振動電磁フィルムが展開される。 フィルムの抵抗がある分、落下速度が減殺され、囮のスピアーよりも僅かに遅れて使徒の頭上に降り注ぐ。 フィルムがギロチンのように使徒の身体を分断し、使徒は早くも2体に分離した。 着地した次のパターンは5-2。 兵装ビルからパレットガンの供給を受け、パターン3-5で回り込みながら射撃する。 アスカの予想通りだ。 使徒の反撃。ヤシマ作戦のときに食らった加粒子砲のような遠距離攻撃だ。 パレット・ガンを捨て、パターン2-6のバック転の連続で躱す。 2-6、また2-6。まだか? やっと5-3が来て、エヴァの足で道路に仕込まれた踏み板を踏み込むと、 エヴァの面前に瞬時に特殊装甲板がせり上がる。 装甲板の陰に隠れて攻撃をやり過ごし、その後ろに取り付けられているパレット・ガンを取って、再び斉射する。 でも、躱されてしまって、当たらない。 大跳躍で一気に距離を詰めてきた使徒を2-3で左右に躱した瞬間、支援砲撃の雨が降ってきた。 ミサトさん、ナイス! 少し息が付けたぼくたちは、砲撃でひるんだように見える使徒を、3-3、3-4のコンビネーションで攻撃。 ここはぼくたちの得意なパターンだ。気持ち良く、蹴って、また蹴る。 たまらず合体した使徒を、フィニッシュ・パターンの4-1で攻撃する。 タイミングを合わせてハイ・ジャンプして、使徒のコアにダブル・キック。 使徒が再び分離しようとするが、初号機と弐号機の足が、分離しつつあるそれぞれのコアにかかっている。 逃がさない! 手ごたえがあった。 使徒のコアが荷重に耐え切れずに崩壊していくのを足先に感じる。 やった。 やったんだ。 そう思った瞬間、弐号機の機体の荷重が初号機に掛かってきて、今朝痛めた背中に、ピリっ、と電気が走った。 しまった、と思ったときにはもう遅く、ぼくたちはバランスを崩して、 お互いに絡みつくようにして倒れこんでしまった・・・。 なんだよっ! 最後の最後で、アスカのやつ! 使徒の殲滅には成功したけど、エヴァの機体は無様に重なり合って、倒れてしまった。 と、同時に、内蔵電源が切れ、エヴァは活動を停止した。 どこも壊れてなければいいけど・・・。
プラグを排出して外に出たら、非常通信用の電話が鳴った。
アスカだな! ひとこと文句言ってやる! どうしてこんなやつを一瞬でも好きだなんて思ったんだろう。 たぶん、頭がおかしくなってたのに違いない。 絶対謝らない。 アスカには、絶対に、謝らないぞ! |
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現場から回収されて、ネルフに向かい、バイタル・チェックを受けた後、冬月副司令に、またお小言を言われた。 今度は少し長かった。 それから報告書を書いて提出し、ぼくたち二人が家路に着いたのは夕方だった。 ミサトさんは、後片付けがあるそうで、少し遅れるらしい。 ガラガラのリニアレールの席に少し離れて座りながら、お互いに全く口を利かない。 アスカもこっちを見ないし、ぼくもなるべく見ない。 バスの中でも、ずっと無言だった。 ミサトさんちに戻って、扉を開け、二人同時に「ただいま」って言ったのが最初だった。 思わず顔を見合わせたけど、すぐにお互い不機嫌な顔になって、そっぽを向いた。
出しっぱなしになっていた洗濯物を片付けて、自分の部屋に戻ろうとしたところで、アスカに声を掛けられた。 そうか。 アスカがずっと黙ってたのは、不機嫌だったわけじゃなくて、このことをずっと考えてたからか。 ぼくが追い出されることになるだろうって思って、そのことを心配してたんだ。 ぼくは、その間、アスカなんか大嫌いだ、とか、絶対謝らない、とか、 どうやって仕返ししてやろうとか、そんなことばかり考えてた。 なんてバカなんだ。
「反省してる?」 イヤだ。アスカがぼくのうちから出て行くなんて、絶対、イヤだ。
「どっちかが出て行くしかないならしょうがないでしょ? それともあんたが出てく?」 イヤだ。そうだよ、ぼくのうちは、ここなんだ。でも・・・
「ぼくのせいで、こうなっちゃったんだね・・・」
支度しようとしてキッチンに向かった。
エプロンをつけて、何を作るか決めようと、冷蔵庫を検めているとき、電話が鳴った。
たぶん、ミサトさんだ。
そうだ! ミサトさんに頼めば、まだ、何とかなるかもしれないじゃないか!
「はい、葛城です」
「なによ、どうかしたの?」
「どうもすみません、ミサトさん?」
「アスカ?」
「アスカ」 仕返し? なんのことだろ? ミサトさんが何を言ってるのか聞こえたらいいんだけど、あんまり側に寄ったら、アスカ、嫌がるよね。
『で、あたしの役はアレで良かったの?』 何だか、あんまり関係ないことを普通に会話してる気がするんだけど・・・。 アスカ、もう諦めちゃったのかな。 それとも、何か、意地張ってるのかな。 ミサトさんに、ちゃんとお願いしなくていいのかな。
『うちにいたい?』 アスカがこっちを振り返った。 さっきのぼくのときみたいに、何かをお願いしなさい、って言われてるのかな。 キツい条件じゃないといいんだけど。 ミサトさんも、ぼくが悪いんだから、面倒なことならぼくに言えばいいじゃないか。 いつもアスカにばかりキツく当たって、アスカは悪くないのに、可哀想だよ。
『イヤなの?』 アスカは、再び電話機の方に向き直ると、少し声のトーンを落とした。
「それだけは勘弁よ・・・。どんな勘違いされるか、だいたい想像がつくわ」 アスカ、ダメだよ、そんな言い方じゃ、ずいぶん強気っていうか、失礼っていうか、 とにかくもっとちゃんと頼んでよ、お願いだから。
『まあいいでしょ。じゃあ、これからもよろしくね。』
「代わりました」
受話器を置いたぼくは、アスカの方を振り返って言った。 どうしてだろう。 好きだからかな。 やっぱり、ぼくは、本当は、アスカが好きなのかな。 だから一緒にいたいのかな。 でも、昨日の夜に感じた、ああいう感覚じゃないんだ。 あれが、好きだ、っていうことなんだとしたら、そうじゃない。 たぶん、もっと大事なことのような気がするんだけど・・・。 ひとことでは、うまく言えない。
「言いなさいよ」
「あ、それで、ミサトさんが、ぼくは引っ掛かった、って言ってたんだけど・・・」
ぼくは、あっけにとられた。
「じゃあ、嘘ついたの?」
ぼくは、怒りのやり場を失ってしまった。
「とっとと出てけばいいじゃないか、とかって、言うと思わなかった?」 |
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ミサトさんが帰ってきて、祝勝会が始まった。 メインは豚の冷しゃぶにした。 キュウリと大葉の千切りと、かいわれ大根にワカメも添えて、胡麻ダレとおろしポン酢を用意した。 ぱーっと盛大に、っていうことだったので、もう二品、ベーコンとジャガイモとタマネギのカレー炒めと、 鶏胸肉とキノコのソテーのホワイト・ソース和えも作った。 サラダ代わりに、焼きナスを割いてキンキンに冷やしたのを生姜醤油で。 スープは、豚肉を茹でたコンソメに、缶詰のスイート・コーンとタマネギのみじん切りを入れて、 コーン・スープにした。
「いやー、想像以上に豪華ねー。シンちゃん、これ、たいへんだったんじゃないのー?」
乾杯が終って、アスカが早速鶏肉に手を付けた。 ぼくはMVPじゃなくていい。 アスカが、ミサトさんが、くちぐちに料理を褒めてくれて、 作戦のことや、訓練のことを、みんなで楽しく振り返ることができて、 こんなふうに楽しく食事できるなら、それでいい。 このメンバーで、一緒に戦って、勝った。 みんなで一緒に何かやるのって、楽しいんだな。 そして、それをみんなで振り返るのは、もっと楽しい。 一昨日、この同じテーブルで、中華料理を囲んで前祝をしたときのことを思い出した。 そっか。ぼくが守りたかったのは、これだったんだ。 だから、アスカが、どうしても、必要だったんだ。 でも、電話の件でぼくたちをからかうのは、もうやめて下さい、ミサトさん。 |
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その楽しい食事もいつしか終わり、片づけをした。 ミサトさんは、自室で仕事をすると言って、一升瓶と夕食の残りを少し持って引っ込んでしまった。 たぶん、そのまま寝ちゃうつもりなんだろう。 ムリもないよ。徹夜明けだもんね。
テーブルを拭いて、布巾を漂白剤にさらし、エプロンを外して、キッチンの電気を消す。
リビングに行こうとしたら、アスカが顔を出した。
「片付け終わった?」
リビングに行くと、中央にテーブルを出して、アスカが座って待っていた。
ぼくは、テーブルの角を挟んでアスカの右側に座ると、アスカの前に、持って来たものを全部並べた。
「よし。じゃあ、まず、この表の見直しからね」 表には、どんどん新しい項目が書き入れられた。 アスカが、学校の時間割や、ネルフのスケジュールを見て、ぼくの意見を聞きながら、 新しい担当を決めていった。
「なんかさ、アスカが多くない?」 |
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