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Exposition / 提示部 |
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8月7日。金曜日。
昨晩遅くまで続いた特訓のおかげで、さすがに朝は起きられなかった。
ミサトさんがいつ帰って来たのか、気がつかなかったけど、
眠い目をこすって廊下に出ると、やっぱり寝ぼけ眼で部屋から出てきたアスカと鉢合わせになってしまった。
朝ご飯のメニューは、トーストと目玉焼き。のように見えなくもないスクランブル・エッグ。
アスカは、シャワーを浴びてようやくすっきりしたようで、元気に食べていた。
昨日の今日でだいぶ心配したけれど、さすがのミサトさんも卵を焼くくらいは無難にこなせるようだ。
ぼくにはこんな美味しい、っていうか食べられる料理を出してくれたこと、なかったのに。
ちょっと恨めしく思っていたら、ミサトさんが、
朝ご飯のあと、問題のあった4種類を除いた22種類のアクション・パターンをアスカと合わせ、
一発でクリアしてみせた。
ミサトさんは手を叩いて喜んだ。 |
◇ |
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結局、午前中は、洗濯と掃除をすることにした。
この調子だと、ミサトさんはそんなことしてるヒマはなさそうだったから。
洗濯機を仕掛けて、衣類とシーツと枕カバーを洗う。
ついでにアスカとミサトさんのシーツと枕カバーも。
お掃除は、お風呂場から始めて、お手洗い、キッチン、廊下、リビング、と来て、自分の部屋で終了。
アスカは、最初は自分の部屋の掃除をしていたようだけど、それはすぐに終ったようで、
途中からぼくの後ろにくっついている。
ミサトさんから電話があって、少し早いけどお昼の準備をすることにした。
今日は、簡単に、スパゲティで。
鮭とシメジを焼いて、ホワイトソースで和えたソースにした。 |
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楽しいお昼ご飯の後は、つらい訓練だった。
「えーっと、左が弐号機のデータで、右が初号機か・・・」 ところが、結果は散々だった。
「なんでよっ! 今朝はこれでイケてたでしょっ!」 理屈は分かったけど、難しかった。 ぼくとアスカは、新しくリツコさんによって詳細なタイミング・チャートが添付されたフリップを見せられた。 もはやこれは楽譜と言った方が近い。 それも、左手ピッツィカートがふんだんに入った、激難のピアノ・コンチェルティーノの。 アスカが第一ヴァイオリンなら、ぼくはチェロだ。 チェロがシンコペーションで食い気味にリードするその上を、ヴァイオリンが荒々しく舞っている。 これをぼくたちに弾けるだろうか。
その楽譜で、タイミングを確認した。
やはり、初号機と弐号機とでは、微妙にズレがある。
今まで、アスカの動きを感じながら、同じタイミングになるように動いていたところもあったけど、
この楽譜によると、それじゃダメなところがけっこうある。
道理で、合わないわけだ。
再び、1-1から各パターン1回ずつのシークェンスをやった。
機械が計測したタイミングのズレが、付属のLEDディスプレイに表示される。
ぼくたちからはそれは見えないし、見ているヒマもないけれど、ミサトさんがそれを睨みながら、メモを取っている。
4シークェンス終ったところで、ミサトさんがメモを見返しながら言った。
「よーし、それじゃ、通しでいってみよー」 |
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アスカにはずいぶん迷惑を掛けているという自覚は、ある。 せめてものお詫びに、ちょっとでも美味しいものを食べてもらおうと思った。 アスカが好きだろうと思って買っておいたソーセージを茹でた。 付け合せは、キャベツとブロッコリーと、刻んだベーコン。 ソーセージの茹で汁にコンソメを足して、茹でてみた。 本当は、ザワークラウトがあればいいんだろうけど。 とんかつソースにマヨネーズとマスタード、それにダシ入りの白味噌を少し混ぜ、 煮汁で少しだけ伸ばしてソースを作ったら、やっぱり野菜と合う。 ジャガバターも作ろう。 ジャガイモを電子レンジでふかしてから、オーブンで焦げ目をつければいいかな。 見た目だけは、ちょっと、ドイツっぽくなるよね。 こうなったらスープもドイツ風にしよう。 玉ねぎをスライスして炒めて、野菜の茹で汁を使ってオニオン・スープを作ってみた。 こんな感じかな。 アスカの機嫌が良くなるといいけど。
訓練が終ったのか、それとも待ちきれなくなったのか、二人ともキッチンに入ってきた。
ミサトさんは、欠食児童みたいにそこらを嗅ぎ回ってから、冷蔵庫からビールを出して、
「ねえ、まだー?」と催促する。
アスカは、こんなのちっともドイツ料理じゃないわよ、とかなんとか言ってた。 |
◇ |
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夕食後、再び二人で合わせてみた。
が、相変わらずアスカは少し早いところがあり、ぼくも、それに釣られたり、
そもそもタイミングが取れないところがあった。
ミサトさんは、柿の種をつまみつつビールを呑みながら、ぼくらのスコアをチェックしている。
「合うまでやるわよー」と言っていたが、午前零時を過ぎても合わない。
「今からあんたたち、すべての行動を合わせない」 |
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アスカがお風呂に入っている間に、機械を片付けて、ぼくの布団を敷いた。 女の子と同じ部屋で寝るのなんて初めてだ。 ちょっと、わくわくするような感じがするけど、たぶん、アスカはイヤなはずだ。 ぼくが楽しそうにしてたら余計にそうだろう。 アスカに悪いような気がして、なるべく普通にしていようと思った。 「平常心」って書いたTシャツがあったのを思い出して、寝間着にしようと思って持ってきた。
楽譜を見ながら曲を聴き、タイミングをおさらいしていたら、ミサトさんが布団を持って入ってきた。
「ねー、」
ぼくは、布団の上に座って、楽譜を見ながら振り付けのおさらい。
ミサトさんは、戻ってきた後、布団にうつぶせになって、持って来た書類を広げて仕事をしている。
そこに、お風呂から上がったアスカが、 ぼくが真中になるように布団の位置を替えて、お風呂に入った。 状況を整理して考えた方がいいと思った。 使徒を倒さなくちゃならない。 それはとても重要なことなんだけど。 でも、それはともかくとして、ぼくは今、それとは別の重要な事態に直面している気がした。 アスカの隣で、寝るのか。 別に、寝るだけなんだから、どうってことない。 でも、アスカは、ぼくの隣がいい、って言った。 それは、作戦を成功させるためなんだから、しょうがない、ということなのかもしれない。 でも、こう、アスカがここに来てからの出来事をひとつひとつ思い出していくと、 どうも、それだけじゃないような気もする。 最初の日、部屋に入れてくれたのも、そういうことだったのかもしれない。 そうじゃなかったのかもしれないけど。 名前で呼んでいい、って言ったのは何故だったんだろう。 でも、欧米の人は普通は名前で呼ぶらしいし・・・。 プレゼントをくれたのはどうだったんだろう。 でも、あれも、別に何でもなくても、普通にやることだっていう気もする。 でも、ミサトさんには何もなくて、ぼくだけだったんだよね。 ドイツで買った、って言ってたけど、それだって、本当なんだろうか・・・。 夜遅くまで、廊下でぼくの練習が終るのを待っててくれたのは、どうだったんだろう。 ぼくのわがままで、追い出しちゃったのに、ずっと、眠いの我慢して。 あれも、作戦の成功のためだったんだろうか。 でも、今日の朝、アスカがずっとぼくにくっついてた理由は、どうしても分からない。 そして、さっき、隣で寝たいって・・・。 どうなんだろう。 そして、そんなことをお風呂に浸かりながらあれこれ考えているぼくは、 いったいアスカのことをどう思ってるんだろう。 |
◇ |
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お風呂から上がって、リビングに戻る。 ぼくは、ちょっと、どきどきしてきた。 寝返りを打って、アスカの方を向いた。 アスカは、テレビからぼくに視線を移した。 こうして良く見れば、本当に、かわいい。 隣の布団に寝ているアスカとの距離は、そんなに離れてはいない。 ぼくが手を伸ばしても届きはしないけれど、アスカの方からも少し手を伸ばしてくれれば届くだろう。
ぼくが、躊躇しつつアスカを見つめていたら、 良く考えてみたら、そりゃそうだよね。 ぼくはいったい、何をバカなことを考えていたんだろう。 アスカが怒るのも当たり前だ。 でも、あんなふうに言わなくったって、いいのに。 |
◇ |
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「さー、寝るわよー」 ぼくだって、そうしたい。 |
| つづく |
| Concertino |