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Introduction / 序奏

8月6日。木曜日。

今日から出撃までの間、朝ご飯はミサトさんが作ってくれる。 ・・・はずだったんだけど、早速お寝坊しちゃったらしい。 まあ、予想されたことだけどね。 ぼくは早くから目が覚めてたし、どうせそんなことだろうと思ってたので、 エプロンを着けて、朝食と、ミサトさんのおべんとの支度を始めた。

暫くして、惣流が起きてきた。
「おはよ」
ぼくは、アジの干物の焼き加減を見つつ、答えた。
「おはよう。昨日は眠れた?」
「うん・・・」
味噌汁の味を見て、合わせ味噌を溶き入れる。 まあ、こんなもんかな。 ミサトさんのおべんと用の冷凍シュウマイ、あっためとくか。 冷凍庫からシュウマイを出して、電子レンジの方へ向かおうとしたら、惣流はまだキッチンの入り口に立っていた。 そうだ、訊いとかなくちゃ。
「朝ご飯さ、魚の干物、食べられる?」
電子レンジをセットしながら声を掛けた。
「え? えーっと、・・・食べたことないわね・・・」
「そっか。じゃあ、一応、オムレツも用意しとくか」
などと言いつつも、ご飯が炊けたのをかき混ぜて蒸らしたり、 冷蔵庫から中華風オムレツの材料用に生卵とスライス・ハムと長葱を出したり、と、忙しくしてたんだけど。 暫くしてフと気が付くと、惣流はまだキッチンの入り口に立ったままだった。
「あれ? どうしたの?」
「え? うん、いや、別に・・・、忙しそうね」
見ると、惣流は、昨日着ていたタンクトップやジョギング・パンツを手に持っている。 ぼくの視線がそれに注がれたことに気付いたのか、惣流は、あわてて後ろ手に隠した。 そうか。
「あ、ごめん。昨日、洗濯の仕方、教えなかったんだっけ」
「ま、まあね。あ、あたしが聞き忘れたのが悪かったんだけど。 あんたもどうでもいいことばっかいろいろ教えて、肝心のこと忘れちゃってりゃ世話ないわよね」
なんだとっ、って言おうとしたんだけど、惣流は笑顔で、別に文句を言ったわけではないみたいだった。
「そうだよね、忘れてたよ。・・・篭に入れといてくれれば、ぼく、やっとくよ?」
「あ、あんたバカぁ?! あたしはミサトとは違うのよっ!」
しまった。 そりゃそうだよね。女の子が、脱いだ服を人に触らせたりするわけないよ。 何考えてるんだ、ぼくは。
「ご、ごめん、そっか、そうだよね、ミサトさんが異常者だって、忘れてたよ。ほんと、ごめん・・・」
「ま、まあ、いいわよ・・・。悪気は、ないんでしょ? うん。悪気はないのよ。 だから、それ終わったら、やり方だけ教えなさい」
惣流は、少し恥ずかしそうだった。

昨日ミサトさんが、スタイルがどうとか言ってたのを思い出した。 そういうことなのかな。つまり、惣流にはこれが普通ってことなのか。 それもちょっとどうかとは思うけど、でも、悪気はないんだな、たぶん。

「うん。ちょっと待ってて」

干物の焼き加減を確認してから火を止めた。 脱衣場で、惣流に、洗剤や柔軟剤の在り処と、洗濯機の使い方、ブラの傷めない洗い方なんかを教えてやった。

惣流には、一日のスタートがとんでもないことになっちゃって、ちょっと、悪かったな。

朝のシャワーを浴びて、洗濯機を回してきた惣流が、キッチンに戻ってきた。 そのときには、ミサトさんのおべんとと、3人分の朝食の用意ができていた。 昨日の夕食と同じ席に二人で並んで座り、いただきますをして、朝ごはんにした。
「あ、そうだ。部屋のゴミ箱のゴミ、ミサトさんが出かける前に、玄関のゴミ袋に入れといて。 ミサトさんが捨てに行ってくれるから」
「分かった」
「魚、どう?」
「うーん、ちょっとキツいわね、これ。骨が多くてめんどくさい」
惣流には、背骨のない方の半身をあげたんだけど、見るからに苦戦している。
「あはは、ナイフとフォークじゃキツいよね、やっぱ。 じゃあ、半分だけにしなよ。残りはぼくがもらうから」
「なによあんた、あたしの食べ掛け食べる気? 変態じゃないの?」
「いや、食べ掛け、って、魚なんだから、箸で真中から割ればさ、って、ナイフとフォークなのか・・・。 じゃあ、ほら、」
って言って、戸棚から菜箸を出し、惣流の目の前のお皿の魚をキレイに半分に割って、 骨の多い腹側の身をもらった。
「な?」
惣流は、少し驚いたような顔をしたが、結局何も言わなかった。
「それだけじゃ足らないだろ? そのオムレツ、全部あげるよ」
「ありがと」
「結局卵になるんだったら、ご飯じゃなくて、パンにしとけば良かったね」
「いいわよ。ご飯、けっこう好きだし」
「そうなんだ」
「うん。今日から好きになった」
「へー・・・」
「ペッパーは?」
「うん。これ使って」
惣流はオムレツにケチャップをたっぷりとコショウを少し掛けると、美味しそうに食べた。

予想よりずいぶん早く、ミサトさんが起きてきた。 寝ぼけ眼で、申し訳なさそうな顔をして。
「シンちゃん、ごめん・・・」
「いいですよ、どうせこんなことだろうと思ってましたから」
「違うのよ、ちゃんと起きたのよ、起きたんだけど、」
「いいですよ、どうせこんなことだろうと思ってましたから」
「うー・・・」
ミサトさんは廊下の方へ出て行った。惣流がクスクス笑ってた。

ミサトさんは、午前中にネルフでどうしても外せない会議があるとかで、訓練は午後からやることになった。 そこで、午前中は、惣流の日用品と、食材の買い溜めのために、買い物に行かせてくれるように頼んだ。 ぼくと惣流は、これから暫くミサトさんちに缶詰になるらしいから、今行っておかないと機会を失う。

惣流は、日本のスーパーマーケットで買い物をするのは初めてだそうだ。 日本とドイツで、スーパーにどれだけ違いがあるのかは知らないけど。 まずは日用品売り場で惣流の買い物を先に済ませることにした。 シャンプーやリンスなどの浴室用品、歯ブラシ、デンタル・リンス、化粧品、などなど、 次から次へと買い物篭に放り込んでいた。
「次は?」
「うーん。まあ、こんなもんね」
「ずいぶん買ったね・・・」
「悪い?」
「あ、必要なんだから、仕方ないよね・・・」
「そうね」
惣流は、それでもまだ何か足らないのか、少しの間、売り場を行ったり来たりしていた。

「ねえ、まだ何か買うの?」
すると、惣流は足を止め、こっちを振り返った。
「あんたさ、わたしにプレゼントする気ない?」
「え?」
何を言われているのか、良く分からなかった。
「新しい同居人が増えたわけでしょ? 何か、記念になるようなもの、買ってよ」
すぐ側で台所用のスポンジを品定めしていたおばさんが、こっちをチラっと見たような気がした。
「なに言ってんだよ・・・」
「あたしが頼んでんのよ?」
「いや、でもさ、」
「こういうとき、加持さんだったら、ステキなアクセサリーとか、さりげなーく、買ってくれるわよ」
「加持さんはお金いっぱい持ってるじゃないか」
「分かってるわよ。だけどあんたの100倍も1000倍も持ってるわけじゃないわよ? だからあんたのレベルに合わせて、こんなスーパーで頼んでるんじゃないの」
惣流はだんだんイライラしてきたみたいだった。 ぼくは、言い返そうとしたけど、そこで思い出したことがあった。
「あ、そうだ」
「なに?」
「ちょっと、こっち来て」
さっき見掛けて気になっていたモノのところまで、惣流を引っ張っていった。

「ほら、これ」
「なに? それ」
「うん、机の掃除に使えるかな、って思ってさ」
ハンディ・モップだ。
「昨日見たけど、机の上、けっこう小物あったろ? これだったら、静電気対応みたいだから、キーボードの埃も払えるし」
「へー」
「もう持ってる?」
「ううん」
「じゃあ、どう?」
「あんたも使ってんの?」
「ぼくはパソコン持ってないから。今まではどうしてたの?」
「キーボードは、使わないときは裏返しにしてたけど。机は布巾で拭いてた」
「なるほど・・・。じゃあ、いらないのかなぁ」
「ううん。良さそうじゃない。確かに、今までちょっとめんどかったのよね。 それに、なんか、あんたらしいし」
「そっかな」
「450円か・・・。これ、プレゼント、してくれる?」
なんか、うまく誘導された気もするけど、このくらいならいいか。
「うん、いいよ。歓迎の印に」
「ありがと」
ぼくはそれを自分の買い物篭に入れた。
「ムリ言っちゃったわね」
惣流が、らしくないことを言った。 ぼくは、なんだかちょっと「いいこと」をしたような気がしてきた。 変だよね。確か、昨日は、全然歓迎するつもりなんてなかったのにさ。
「いいよ。言われてみれば、そうだよな。折角来たのにさ。そういうこと、考えてなかったよ」
「お子さまねぇ」
そう言って、惣流は、ふふっ、と笑った。

日用品の清算をして、食料品売り場に移動した。 今までと違って3人分だし、ミサトさんの調理だから、大量に買っとかないと。 それも、パンとかアイスとか、近くのコンビニで買えるものは除いて、生鮮食品を重点的に。 惣流にも手伝ってもらって、2台のカートに篭を4つ載せて、売り場を回った。
「やっぱり、魚より肉の方が好きなんだろ?」
「昨日まではね」
「あ、アジの干物、美味しかった?」
「うーん・・・、まあ、美味しかった、とまでは言えないんだけど、興味は湧いたわ」
「複雑な表現だね・・・」
「お肉よりもご飯に合うわよね」
「そうだね。まあ、味付けの問題だけど」
「骨のない魚ってないの?」
「あるよ、あるある。いっぱいあるよ」
「じゃあ、最初はそういうのにして」

大量に買い込んだ食材を、持参した2台のキャリアー・カートに入れ、入りきらない分はエコ・バッグに詰め込んで、 家路に着いた。 行きはミサトさんの車に便乗させてもらったけど、帰りはバスに乗るか、 上り坂を30分くらい歩いて帰らなけりゃならない。 バスに乗りたかったけど、帰り道に訓練をやるように、ってミサトさんに言われてたっけ。

「ミサトさんに、歩調合わせろ、って言われてたよね」
「そうだったわね。練習してみる?」
「うん。じゃあさ、MD持ってきたから。これ、イヤフォン、片っぽ使って」
「用意いいわねぇ」

惣流の左耳と、ぼくの右耳にイヤフォンを付けて、課題曲を掛けた。 戦闘用の曲っていうから、激しいのを想像してたんだけど、 意外にも、勇ましくはあるけれど優雅な曲調のピアノ・コンチェルトで、驚いた。 いや、一楽章だけだから、コンチェルティーノか。 でも、テンポが速いから、1拍1歩だと駆け足だな。
「2拍で1歩、2小節を3歩でいい?」
「た・ん・た・ん・た、か」
惣流は、左手と右手で交互にリズムを取って、タイミングを確認した。
「うん。それでいいんじゃない?」
ぼくと惣流は、「せーえーの、」って言って左足からステップを踏み始めた。 不思議と、一発で歩調が合った。 歩幅もぴったり。 二人とも荷物を持ってるから、イヤフォンの長さに余裕はないんだけど、 それでも、引っ張られて外れたりすることなく、次の信号まで行けた。 思わず顔を見合わせたとき、惣流が言った。
「なによ、いけるじゃない!」
「そうだね! なんか、楽しいね」
「うん! ・・・楽しいかどうかはどうでもいいのよ、ちゃんとできればそれでいいの」
「ぼくに合わせてくれてるの?」
「ううん。あんたじゃないの?」
「ぼくは自然に歩いただけだけど」
信号が変わって、再び歩き始めた。

歩幅も歩調もぴったり合っている。 まるで二人三脚みたいだ。 良く分からないけど、もしかしてこれって簡単なのかな? いや、そんなことないよね、3拍子なんだし。 ぼくは、音楽やってたから、少しは自信あったけど、惣流がこんなにぴったり着いて来られると思わなかった。 やっぱり、音楽やってたのかな。それとも勘がいいのかな。

次の信号まで、ノン・ストップで進んで、また立ち止まった。 なんとなく、惣流の方を向いたら、惣流もこっちを向いていた。
「惣流って、音楽か何か、」
「あんたさ、わたしのこと、惣流、って呼ぶの、やめてくれない?」
「え? うん、いいけど、・・・じゃあ、なんて呼ぶ?」
「アスカでいいわよ。そっちの方が慣れてるし、あたしだってあんたのことシンジって呼んでんだから」
「そうだね。うん、いいよ」
「・・・ちょっと、練習しなさいよ」
「何を?」
「名前で呼ぶのをさ」
「えー・・・」
「ほら、そうやって恥ずかしがるからよ。ミサトのいる前でそんなふうになったら、変に思われるでしょ?」
「そうだけど、」
「だから、ほら」
「わ、分かったよ」
信号が変わった。
「それじゃ、アスカ、いくよ」
「うん」

アスカとぼくが、歩き始めた。

ミサトさんちに戻って、ぼくは、大量に買い込んだ食材の整理を始めた。 肉や魚はパックから出して、1人前ずつラップに包み、冷凍庫に入れる。 野菜は常温保管分と冷蔵庫保管分に分ける。 惣流も、いや、アスカも、しばらくは日用品の整理をしていたようだったが、やがてキッチンに戻ってきた。
「あんたそれ、いつまでかかるの?」
「え? それは、全部整理するまでだけど・・・」
「じゃあ、あたしも手伝うわよ」
「あれ? 家事はやんないって、」
「あんたがトロいから見てらんないの」
アスカが手を洗い、魚のラッピングをし始めた。
「なんかヌルヌルするし、生臭いし、これ、ホントに美味しくなるの?」
「それは・・・、料理するヒト次第かな」
「なるほど。じゃ、安心ね」
「あはは、どうだろ・・・」

食材の整理が終って、キッチンのテーブルには、アスカに渡すプレゼントだけが残った。
「おつかれさま。お茶淹れよっか?」
「うん。・・・あたしちょっと、取ってくるものがあるから」
アスカは、廊下の方へ戻っていった。

番茶の缶を出して、急須に3人分の葉を入れる。 湯呑みにポットのお湯を注ぎ、少しだけ冷ましてから急須の中へ。

お茶を出しているとき、アスカが戻ってきた。 いつもの、ぼくの右隣じゃなくて、向かい側の、ミサトさんの椅子に座った。
「今、淹れるから」
少し待ってから湯呑みに注いで、
「はいどうぞ」
と差し出した。
「ありがと。・・・ね、プレゼント、ちょうだい」
「あ、そっか。じゃあ、これ。大したもんじゃないし、ラッピングもしてないけど」
スーパーで買ったハンディ・モップを、一応両手で持って、うやうやしく差し出してみた。 アスカはそれを右手で受け取った。
「うん。ありがと。これは、わたしから」

びっくりした。

アスカが、テーブルの下から左手を出すと、そこには、ちゃんとラッピングされ、リボンがかかった、 小さな直方体の箱が乗っていた。
「ぼくに?」
「だって、これからお世話になるでしょ?」
ぼくは、その箱を受け取った。
「・・・だからか、プレゼント、って・・・」
「あたしだけ渡したら、あんたが気を遣うだろうと思ってさ」
「だったら、もっといいやつを、」
「いいのよ、これで。あんたらしいじゃない」
アスカは、右手に持ったモップで、くるくると、テーブルの上を拭く真似をした。 ぼくは、本当に、申し訳ない気がした。
「でも、これ、いつの間に?」
「うん、種明かしすると、ドイツを出るときいくつか買っといたのよ。 こっちでお世話になる人がいるだろう、って思って。 まー、結局、渡したのはあんたが初めてだけど」
「アスカってさ、オトナだよね・・・」
「あんたがお子さまなのよ」
「ほんとだね」
ほんとだ。
「開けなさいよ」
「うん」

万年筆が出てきた。

「これ、高いんじゃない?」
「まあ、それなりね。でも高級品じゃないわよ」
「どっかに飾っとこうかな」
「使いなさいよ」
「もったいないよ」
「・・・じゃあ、勝手にすれば?」
「うん。でも、なんだか悪いな・・・」
「何が?」
「だって、ぼくのは、そんな、たいしたもんじゃないのに、」
「なに言ってんのよ。だから、それは、あんたのために選んだものってわけじゃないのよ」
「うん」
「これはさ、」
アスカがモップを両手に持ち替えた。
「あんたが、あたしがこれを必要としているだろう、って思って、選んでくれたんでしょ?」
「うん」
「あたしは、断然こっちの方がうれしいわよ。そんなのよりも」
アスカは、ぼくの持っている万年筆の方を、顎で指した。
「ミサトが戻ってきたら厄介だから、早めにしまっといて」
「そういえば、ミサトさんには?」
「え?」
「何かプレゼントしたの?」
「えーっと・・・。 まあ、そうね、つまり・・・、 つまり、ほら、あたしは、ミサトの都合で呼ばれたわけだからさ、あたしの方からっていうのは変じゃない?」
「そうかな・・・」
「そうよ。だからいいの。 あんたは、そうじゃなくて、ミサトの都合に振り回されてるだけでしょ? だから、渡すの」
「なるほど」
良く分からなかったけど、そういうことにしておいた。

電話が鳴った。 ミサトさんからで、終ったのでこれから戻るそうだ。 ぼくは、お昼の支度をすることになった。

「そんじゃ二人とも、まずはこれに着替えてくれる?」
お昼ご飯を済ませた後、リビングに集合したぼくたちの前に、ミサトさんが、 お揃いのTシャツとスパッツを突き出した。
「えーー!! なによこれー!」
「いやあ・・・、さすがにこれは、」
「あんたたち、これからは一挙手一投足を合わせんのよ? 服装くらい合わせなくてどーすんのよ。 日本人は形から入るものなの」
「あたしイヤっ!」
「命令よ、アスカ」
「う゛ーーー」
アスカは、泣きそうな顔で、ぼくを見た。 そりゃ、できることなら何とかしたいけど・・・。
「命令だって言うなら、仕方ないよ。一日着れば、洗濯するんだし、そんなに何回も着ないでしょ? だからさ、とりあえず、今は我慢しようよ」
「分かった・・・」
「うふふ、ちゃんと着替えもあるわよー」
「「えーー!!」」

着替えが済んで、ぼくたちは、アクション・パターンを説明した資料を渡された。 パターンには番号がついていて、それぞれエヴァの動きが、タイミング・チャート付きで指示されている。 各パターンの長さは、オープニングとフィニッシュの長いのを除けば、2小節か4小節。 曲は180くらいの三拍子だから、だいたい2秒か4秒ってことだ。
「手間取ったけど、ようやくできたのよ、それ」
パラパラとめくってみる。
「26種類ですか・・・」
「それでも絞り込んだのよ。あと5日であんたたちに覚えられるのはそのくらいが限界でしょ?」
「わたしはだいじょぶよ」
アスカが資料から顔を上げた。
「アスカだけがだいじょぶでもダメなのよ。二人でやるんだから」
「兵装ビルとの連繋もトレーニングするんですか?」
最後の、5と6で始まる7個のパターンは、エヴァの動きだけじゃなくて、 兵装ビルや自走砲小隊とも連繋するようになっている。
「そっちはぶっつけ本番ねー。 今、技開四課にプログラミング急がせてるけど、たぶん本番ギリギリになっちゃうから」
「まあいいわ。あたしたちはあたしたちにできることをやりましょ」
「じゃあ、早速いくわよー」

リビングに、ゲームのような機械を2台、設置した。 床に、畳1枚よりも少し広いくらいのシートを、各1枚、敷いた。 シートには、前の方から3-2-3-2-3個、合計13個の円が描かれている。 ぼくたちは、ヘッドフォンをつけ、その上に立って準備する。 機械をスタートすると、ヘッドフォンから音楽が流れ、その音楽に合わせて、 二桁のアクション・パターン番号が合成音声で指示される。 その後、そのアクション・パターンに応じた円が、そのアクション・パターンの操作タイミングで光る。 ぼくたちは、そのタイミングに合わせて、その光った円にタッチする。 タッチするタイミングはセンサーが判定して、ぼくたちの動きに0.1秒以上のズレがあったら失敗だ。

「まずは、パターン1-1から順にやるわよ」
「「はい」」
「お、声が揃ったじゃない。 最初は、あたしがこの紙を出してあげるから、それを見ながらでいいからね」
ミサトさんが、アクション・パターンを説明したフリップを左手に持って、 ぼくたちから見えるように掲げた。
「いくわよー。音楽スタート!」
ミサトさんがスイッチを入れると、ヘッドフォンから曲が流れる。 序奏の最後のあたりで「1-1」という音声が流れて、シートが光る。 ところが、ぼくは全くタイミングが取れず、全然合わせることができない。
「はいストップー。ちょっとアスカ、シンちゃんに、」
「このバカ! なにグズグズしてんのよ!」
ミサトさんが言い終わる前に、アスカが怒鳴ってきた。
「え? え?」
「だから、ちゃーんちゃちゃっちゃっちゃっちゃ、ちゃーんちゃちゃっちゃっちゃっちゃ、 ちゃーんちゃちゃっちゃっちゃっちゃっ、ちゃんちゃんちゃんちゃーーーん、でしょ?」
アスカは、出だしのメロディを口ずさみながら、パターン1-1の出だしの動きを見せてくれた。
「あー、なるほど」
「『なるほど』じゃないわよ! ほらっ! やってみなさいよ」
「えーっと、ちゃーんちゃちゃっちゃっちゃっちゃ、ちゃーんちゃちゃっちゃっちゃっちゃ、 ちゃーんちゃちゃっちゃっちゃっちゃっ、ちゃんちゃんちゃんちゃーーーん、だよね?」
「そうそう、やればできるじゃないの。ミサト、もっかい」
ミサトさんは、笑みを浮かべていた。
「あんたたち、いつの間にそんな仲良くなったの?」
「仲がいいとか悪いとかじゃないでしょっ! やんなきゃなんないのよっ!」
「あはは、はいはい。じゃ、いくわよー」
パターン1-1は、すぐに問題なく繰り返せるようになった。

最初にアスカにお手本を示してもらって、それをぼくが覚える、というやり方で、パターン2-5までやったところで、 少し休憩。
「ここまでは順調ねー」
「そうですか?」
「うん。予想以上。アスカの飲み込みが早くて助かるわ」
「あったりまえでしょー?」

だけど大変なのはここからだった。 パターン2-6,2-7はバック転を含んでいた。 アスカと話してみて分かったんだけど、どうも弐号機よりも初号機の方が少しレスポンスが悪いみたいだ。 ぼくのシンクロ率が低いこともあって、同じタイミングでバック転に入ると、 初号機の方がどうしても遅れる上に、小さな転回になってしまう・・・と思う。 パターン2-6のフリップに書かれている動きをやるのに、ぼくの中のタイミングと、 アスカの中のタイミングが違うんだ。
「なるほどねー。機体が違うから、そう単純じゃないってことか」
ミサトさんが頭を抱えた。
「要は、この判定機だけの問題でしょ? このゲームで満点取るのが目的じゃないんだからさ。 同じタイミングで同じ大きさで飛ぶためには、違うタイミングで操作しないといけないのよ」
アスカが威張って言ったけど、それはさっきぼくが説明したことじゃないか。
「そうね・・・。それ、訓練課に作らせたんだけど、 これはつまりエヴァのパーソナル・パターンの問題だから、リツコんとこじゃないとダメね」
ミサトさんは、眉間に皺を寄せ、少し考えてから言った。
「アスカ、パターン3-1から、シンジくんにインストしといて。 あたし、リツコに相談してくるから」
「ネルフ行くの?」
「ううん。電話」
ミサトさんは廊下の方に出て行った。
「じゃあ、その問題はおいといて。続きやるわよ!」
アスカに教えてもらって、フリップを見ながら練習を始めた。 途中でミサトさんも戻って来て、最後のパターン6-2まで、ひととおりやってみた。 パターン2-6,2-7と同様の問題が他にも2つ出てきたけど、とりあえずそれらは抜かして、 ユニゾン練習を始めることにした。

「じゃあ、1-1から、各パターン1回ずつのシークェンスで。とりあえずフリップありで行くわね。 二人とも準備はいい?」
「「はい」」

しかし、結果は散々だった。 アスカと全くタイミングが合わない。
「2-2の3拍目さ、アスカの方が半拍早くない?」
「あんたが遅いのよ」
「いや、でも、曲の流れだと、」
「流れじゃなくて、半拍早くできるでしょ? だったらその方が安全じゃないの」
「いや、でも、合わせ難いよ」
「あんたバカぁ?! 幼稚園のお遊戯じゃないのよ?! 敵がいて、攻撃してくんのよ?! 音に合わせて踊ってて、死んじゃったらどうすんのよ!」
「そうだけど・・・、ミサトさん、」
ミサトさんは頭を掻いている。
「うーん、そうねぇ・・・。まあ、安全なのに越したことはないけど、そこはシンジくんの方に合わせて」
「えーっ! なんでよっ!」
「あたしがそう決めたから」
「理不尽よっ!」
「オンナはいつだって理不尽なのよ」
「あんただけよ!」
「あ、あのさ、ねえ、アスカ、」
「なによっ!」
「3-4の6拍目もさ、半拍早いよね?」
「うん。こっちの方がいいから変えた。あんた、合わせて」
「そんなー、勝手だよ」
「だって、こっちの方が早く構えられて、次のパターンに移りやすいでしょ? あんたもこっちの方が楽なはずよ」
「そっか、なるほど・・・」

実戦では相手がどう動くかは予測できない。 そこで、出だしのパターン1-1を除き、MAGIがその場で選択したパターンが、決まったタイミングで指示されて、 それをつないでいく。 そのパターンの最後の小節の頭に、次のパターンが指示されるんだけど、 それに対して準備ができている方が、次のパターンにスムーズに入れる。 それは確かにそうだ。そうなんだけど・・・。

「・・・いや、でもさ、」
「なによ」
「それ、些細な違いじゃないかな・・・。 今は、ぼくたちのタイミングを合わせることに集中した方がいいと思うんだけど」
「なんですってー?!」
「はいはい、そこまでー」
ミサトさんが割って入った。
「やってもみないで何言ってんのよ! このバカシンジ!」
「そ・こ・ま・で!」
アスカはようやく黙った。
「シンジくんは、そこは拍子通りの方が合わせやすいのよね?」
「はい」
「じゃあ、そうしましょ」
「やってらんないわっ!」
アスカがヘッドフォンを取って投げ捨てた。
「命令よ」
ミサトさんが厳しい目でアスカを睨んだ。
「あら、もうこんな時間なのね。じゃあ、あたしはお夕飯の支度してくるから、あとは二人で合わせてて」
ぼくが「はい」と返事するのと、アスカが「ええっ!」と驚くのが同時だった。
「シンジが作るんじゃないの?」
「出撃まではあたしがやるわ。あんたたちには他にやることあるでしょ?」
ミサトさんはリビングを出て行った。 アスカは、不安そうな目でこっちを向くと、
「ミサトが料理するって、聞いたことないんだけど、だいじょぶなの?」
と聞いた。 ぼくは、何とも返事できなかった。

「ぶはっ」
アスカが、ひとくち食べてすぐに吐き出した。
「なによこれー」
「口に合わなかった?」
ミサトさんが平然と答えた。

ミサトさんがキッチンに向かった後、アスカと打ち合わせをした。 アスカがミサトさんのフリップに詳細なタイミング指定を書き込み、身振り手振りで動きをすり合わせていく。 おかげで、アスカの考えがだいぶ分かってきた。 その作業の途中で、ミサトさんが、ごはんよー、と告げに来た。

メインは、ブリの照り焼きっていうか、タタキっていうか、何とも形容しづらいモノだった。 料理だと思えば、そう見えないこともない。 表面の醤油が黒焦げで、なんとなく、ガンになりそうな。 中は完全に生で、ショウガも何も使ってないらしく、生臭い。 たぶん、冷凍のブリを解凍しないで焼いちゃったんだろう。 これは確かにアスカにはキツいと思う。

「中の方、腐ってるじゃないの、これ」
「そんなことないわよ。ねぇ、シンちゃん」
「そんなことあるわよ! シンジ、ちょっとこれ、ここんとこ、見てみてよ」
ぼくは、隣に座っているアスカの前から、魚の乗っている皿を取って、自分の前に置いた。 その皿の上のナイフとフォークを借りて、一口分を切り出し、自分のお皿に載せた。 まず、匂いを嗅いでみる。
「うーん」
「腐ってるでしょ?」
食べてみた。
「ダメよ! 食べちゃダメ! 吐き出しなさいっ!」
アスカが必死の形相で止めた。
「腐ってはないけど、激烈に・・・、あまり美味しいとは言えない、かな・・・」
「腐ってないの?」
ぼくの正面に座っているミサトさんが、勝ち誇ったような顔で、
「アスカにはまだ分からないのよ、お魚の味は」
と言った。 アスカは、縋るような目でぼくを見た。
「アスカにはもちろん分からないでしょうけど、ぼくにもちょっと難しいかも・・・」
「まーたまた、シンちゃん、冗談キツいんだからー」
ミサトさんは、その、ブリの死骸を、箸で一口分切って、パクっと口に放り込み、ご機嫌でビールを呷った。 それを見たアスカは、少しあっけに取られていたようだった。 が、やがて視線をテーブルに落とすと、何かを探し始めた。 アスカが発見したのは、大根と油揚げのお味噌汁だった。 手を伸ばすと、スプーンで少しだけすくって、啜った。 しかし、どうしてもそれを飲み込めないみたいで、 ほっぺたを少し膨らませたまま、泣きそうな目でぼくに訴えかけた。 アスカ、ごめん。ぼくは君に何もしてやれないんだ。
「吐き出すなら、シンクで・・・」
アスカは、静かに立ち上がると、シンクに、べぇっ、と、吐き出した。
「あたしたちを殺すつもりなのっ?!」
「おおげさねぇ。ちょっとケチャップの量間違えただけじゃないの」
なるほど。なんとなく、色が変だな、とは思ってたんだけど。
「味噌汁にケチャップを入れるのは、最近はあんまり流行ってないみたいですけど・・・」
「やだシンちゃん、それ、ミネストローネよ?」
ツッコミどころが多過ぎて、もはや何も言えなかった。

アスカは、口を漱いでから振り返ると、自分の席には戻らず、ぼくの後ろに立った。
「ミサト・・・」
「なあに?」
「さっきの訓練、本当に、わたしが悪かったわ。ごめんなさい」
アスカが頭を下げて謝った。アスカの赤みがかった金髪が、ぼくの肩にかかった。
「いいわよ。アスカのおかげで助かってるんだし」
「これからも、わたしが責任もってシンジの面倒を見ます」
アスカは、ぼくの両肩に手を置いて、そう言った。いや、別に、いいですよ、そんな。
「そうしてくれると助かるわ」
ミサトさんまで。やっぱり、ぼくって、面倒見てもらわないといけない感じなのかな。
「だから、食事当番だけは、シンジに代わって下さい。お願いします」
アスカが再び、深々と頭を下げた。ミサトさんが鼻白んで黙っていると、
「あんたも何か言いなさいよ」
と、耳元で小声で話し掛けてきた。
「いや、これでもミサトさん、一生懸命頑張ったっていうか、かなりマシな方だからさ、」
「なによ、あんたやっぱ、ミサトの味方なの?!」
「『やっぱ』ってなんだよ。ぼくは、どっちの味方でもないよ、」
「あたしが、・・・、あんたは、・・・、もういいわよっ!」
アスカはそう言うと、キッチンを出て行ってしまった。
「そんなにマズい?」
「えーっと・・・」

大根と油揚げのお味噌汁(ケチャップ入り)は、臭くて苦かった。他に何を入れたのかは聞きたくなかった。

ぼくは、間違ったことを言ってアスカを傷つけてしまったことを、心底後悔した。

「アスカー、いるー?」
アスカの部屋の襖をノックすると、ばたばた、と気配がして、襖が開いた。
「なあに? もうやるの?」
「ううん。お腹空いただろうと思って、これ」
おにぎりを差し出した。 このとき、アスカは、確かに、ぼくを睨んだ。 ぼくは、何か言われるのかと思って身構えたが、出てきた言葉は想像していたものとは違っていた。
「悪いわね・・・」
神妙な顔をしていた。
「アスカが悪いんじゃないよ」
「あんたが悪いわけでもないわよ。ってか、よくあんなの食べられるわねぇ」
ようやく、笑顔になってくれた。
「うん。最近ちょっと、慣れてきたから」
アスカは、一度はおにぎりを受け取ろうとしたが、手を引っ込め、
「ちょっと待ってて」
と言って、部屋に引っ込んだ。 そして、書き込みが増えたフリップを2枚持ち出すと、
「またちょっと危ないとこ見つけて変えたから。あっちで食べながら説明するわ」
と言った。
「へこたれないね」
「あったりまえでしょー?」
ぼくは、アスカの後を付いていった。

「あー、これはダメ」
「なんでよ」
「言ったでしょ? 5と6は、通常兵装と連動するから。もうプログラミング始まってんのよ。 ここの7個は変更不可。間に合わないわ」
「それを何とかすんのがあんたの仕事でしょうが」
「いい加減にしなさいっ!」
ミサトさんがビシっ、と言った。

リビングでは、夕食後の訓練が始まろうとしていたが、 その前に、書き込みだらけになったフリップを使って問題点を整理していた。 アスカがおにぎりをぱく付きながら、ミサトさんとやり合っている横で、ぼくはお茶を啜っている。

「あんたも何か言いなさいよっ!」
今日そのセリフを聞くのは2回目だ。
「えーと、ぼくは、まだちょっと不安だから、早く覚えたいかな・・・」
「ほら、シンちゃんの方が現実的よ」
「分かったわよっ! ったくっ! どいつもこいつもっ!」
「はーい、そんじゃ最初から通していくわよー。 問題のあったパターン2-6,2-7と、3-1,4-3は外して、全パターンを1回ずつねー」
ぼくとアスカが、ヘッドフォンを装け、シートの上でスタンバイする。 ところが、ミサトさんは、判定機のリモコンしか持っていない。
「あれ? フリップは・・・」
「そろそろなしでもいけるでしょー。ね?」
「あったりまえよっ!」
「頑張ります」
「はい、音楽スタート」

ところが、ぼくは、パターン3-5~3-8と、4の全部がだいぶ怪しくて、ミスばかりしてしまった。
「シンちゃんはまだ、」
ミサトさんが言い終わらないうちに、アスカが怒鳴った。
「こーのバカシンジ! なんでこんなのが覚えらんないのよっ!」
「ご、ごめん・・・」
このときは、さすがに、そろそろ覚えなくちゃ、と本気で思った。
「んー。じゃあ、シンちゃん、覚えるまで頑張ってくれる?」
「はい」
「アスカ」
「なに?」
「シンちゃんをお願い。 あたし、さっきのパターンの変更、5と6のを除いて、これから日向君にねじ込んでくるから」
「分かった。こっちは任せて」
「帰り遅くなるけど、頑張ってね」
もう夜の8時だというのに、ミサトさんは出ていった。

みんな、本当に真剣なんだ。 アスカも、ミサトさんも、ネルフのみんなも。 ぼくだけ、なんだかまだ、実感が湧いてない。 残り時間も限られてるし、頑張らなくちゃいけないはずなのに・・・。

アスカの特訓は厳しかった。
「ほらっ! そこはその動きじゃないでしょっ! どうしてあんたは二つのことを同時に覚えらんないのよっ!」
「ごめん・・・」
「謝る前に覚える! じゃあ、3-5から繰り返すわよっ!」
自信はないけどやるしかない。が、3-8でまた躓いた。
「あんたバカぁ?! さっきとおんなじこと言わせないでよっ!」
「うるさいなっ! 分かってるよっ!」
思わず、言ってしまった。 言ってから、少し、後悔した。
「ふーん。分かってんの」
「ごめん、でも、ちょっと・・・」
アスカは、少し考え込んでいるようだった。
「・・・もしかして、あたし、いない方がいい?」
「・・・そうかも・・・」
「そう。・・・じゃあ、邪魔しないわ」
アスカは、持っていたフリップをテーブルの上にまとめた。ぼくは、何も言えなかった。
「全パターン、完璧にしといて」
「分かった」
「明日はミサトを・・・、あたしを、見返してみせんのよ」
「ごめん」
「いいって。一人でやる方がいいこともあるってことくらい、分かってるわよ」
アスカは、行ってしまった。

ぼくは、アスカの書き込みでいっぱいになったフリップを良く読み直して、一つずつ、頭に叩き込んだ。 何度も繰り返し練習して、ようやく自信が持てたのは、日付が変わって暫くしてからだった。

お風呂に入ってから寝ようと思ってリビングを出ると、アスカが廊下に座り込んで、船を漕いでいた。
「アスカ?」
アスカは、ビクっ、として、目を覚ました。
「ん? どう? できた?」
「うん」
「よし。じゃあ、最後に一回、やってみて」
「あの、待っててくれたの?」
「しょうがないでしょー? あんたの面倒見るって、ミサトに約束しちゃったんだから」

アスカの前で、ぼくは初めて、ノー・ミスで通すことができた。

つづく