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Introduction / 序奏 |
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8月6日。木曜日。 今日から出撃までの間、朝ご飯はミサトさんが作ってくれる。 ・・・はずだったんだけど、早速お寝坊しちゃったらしい。 まあ、予想されたことだけどね。 ぼくは早くから目が覚めてたし、どうせそんなことだろうと思ってたので、 エプロンを着けて、朝食と、ミサトさんのおべんとの支度を始めた。
暫くして、惣流が起きてきた。 昨日ミサトさんが、スタイルがどうとか言ってたのを思い出した。 そういうことなのかな。つまり、惣流にはこれが普通ってことなのか。 それもちょっとどうかとは思うけど、でも、悪気はないんだな、たぶん。
「うん。ちょっと待ってて」 干物の焼き加減を確認してから火を止めた。 脱衣場で、惣流に、洗剤や柔軟剤の在り処と、洗濯機の使い方、ブラの傷めない洗い方なんかを教えてやった。 惣流には、一日のスタートがとんでもないことになっちゃって、ちょっと、悪かったな。 |
◇ |
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朝のシャワーを浴びて、洗濯機を回してきた惣流が、キッチンに戻ってきた。
そのときには、ミサトさんのおべんとと、3人分の朝食の用意ができていた。
昨日の夕食と同じ席に二人で並んで座り、いただきますをして、朝ごはんにした。
予想よりずいぶん早く、ミサトさんが起きてきた。
寝ぼけ眼で、申し訳なさそうな顔をして。 |
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ミサトさんは、午前中にネルフでどうしても外せない会議があるとかで、訓練は午後からやることになった。 そこで、午前中は、惣流の日用品と、食材の買い溜めのために、買い物に行かせてくれるように頼んだ。 ぼくと惣流は、これから暫くミサトさんちに缶詰になるらしいから、今行っておかないと機会を失う。
惣流は、日本のスーパーマーケットで買い物をするのは初めてだそうだ。
日本とドイツで、スーパーにどれだけ違いがあるのかは知らないけど。
まずは日用品売り場で惣流の買い物を先に済ませることにした。
シャンプーやリンスなどの浴室用品、歯ブラシ、デンタル・リンス、化粧品、などなど、
次から次へと買い物篭に放り込んでいた。
「ねえ、まだ何か買うの?」
「ほら、これ」
日用品の清算をして、食料品売り場に移動した。
今までと違って3人分だし、ミサトさんの調理だから、大量に買っとかないと。
それも、パンとかアイスとか、近くのコンビニで買えるものは除いて、生鮮食品を重点的に。
惣流にも手伝ってもらって、2台のカートに篭を4つ載せて、売り場を回った。
大量に買い込んだ食材を、持参した2台のキャリアー・カートに入れ、入りきらない分はエコ・バッグに詰め込んで、
家路に着いた。
行きはミサトさんの車に便乗させてもらったけど、帰りはバスに乗るか、
上り坂を30分くらい歩いて帰らなけりゃならない。
バスに乗りたかったけど、帰り道に訓練をやるように、ってミサトさんに言われてたっけ。
「ミサトさんに、歩調合わせろ、って言われてたよね」
惣流の左耳と、ぼくの右耳にイヤフォンを付けて、課題曲を掛けた。
戦闘用の曲っていうから、激しいのを想像してたんだけど、
意外にも、勇ましくはあるけれど優雅な曲調のピアノ・コンチェルトで、驚いた。
いや、一楽章だけだから、コンチェルティーノか。
でも、テンポが速いから、1拍1歩だと駆け足だな。 歩幅も歩調もぴったり合っている。 まるで二人三脚みたいだ。 良く分からないけど、もしかしてこれって簡単なのかな? いや、そんなことないよね、3拍子なんだし。 ぼくは、音楽やってたから、少しは自信あったけど、惣流がこんなにぴったり着いて来られると思わなかった。 やっぱり、音楽やってたのかな。それとも勘がいいのかな。
次の信号まで、ノン・ストップで進んで、また立ち止まった。
なんとなく、惣流の方を向いたら、惣流もこっちを向いていた。 アスカとぼくが、歩き始めた。 |
◇ |
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ミサトさんちに戻って、ぼくは、大量に買い込んだ食材の整理を始めた。
肉や魚はパックから出して、1人前ずつラップに包み、冷凍庫に入れる。
野菜は常温保管分と冷蔵庫保管分に分ける。
惣流も、いや、アスカも、しばらくは日用品の整理をしていたようだったが、やがてキッチンに戻ってきた。
食材の整理が終って、キッチンのテーブルには、アスカに渡すプレゼントだけが残った。 番茶の缶を出して、急須に3人分の葉を入れる。 湯呑みにポットのお湯を注ぎ、少しだけ冷ましてから急須の中へ。
お茶を出しているとき、アスカが戻ってきた。
いつもの、ぼくの右隣じゃなくて、向かい側の、ミサトさんの椅子に座った。 びっくりした。
アスカが、テーブルの下から左手を出すと、そこには、ちゃんとラッピングされ、リボンがかかった、
小さな直方体の箱が乗っていた。
万年筆が出てきた。
「これ、高いんじゃない?」 電話が鳴った。 ミサトさんからで、終ったのでこれから戻るそうだ。 ぼくは、お昼の支度をすることになった。 |
◇ |
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「そんじゃ二人とも、まずはこれに着替えてくれる?」
着替えが済んで、ぼくたちは、アクション・パターンを説明した資料を渡された。
パターンには番号がついていて、それぞれエヴァの動きが、タイミング・チャート付きで指示されている。
各パターンの長さは、オープニングとフィニッシュの長いのを除けば、2小節か4小節。
曲は180くらいの三拍子だから、だいたい2秒か4秒ってことだ。 リビングに、ゲームのような機械を2台、設置した。 床に、畳1枚よりも少し広いくらいのシートを、各1枚、敷いた。 シートには、前の方から3-2-3-2-3個、合計13個の円が描かれている。 ぼくたちは、ヘッドフォンをつけ、その上に立って準備する。 機械をスタートすると、ヘッドフォンから音楽が流れ、その音楽に合わせて、 二桁のアクション・パターン番号が合成音声で指示される。 その後、そのアクション・パターンに応じた円が、そのアクション・パターンの操作タイミングで光る。 ぼくたちは、そのタイミングに合わせて、その光った円にタッチする。 タッチするタイミングはセンサーが判定して、ぼくたちの動きに0.1秒以上のズレがあったら失敗だ。
「まずは、パターン1-1から順にやるわよ」
最初にアスカにお手本を示してもらって、それをぼくが覚える、というやり方で、パターン2-5までやったところで、
少し休憩。
だけど大変なのはここからだった。
パターン2-6,2-7はバック転を含んでいた。
アスカと話してみて分かったんだけど、どうも弐号機よりも初号機の方が少しレスポンスが悪いみたいだ。
ぼくのシンクロ率が低いこともあって、同じタイミングでバック転に入ると、
初号機の方がどうしても遅れる上に、小さな転回になってしまう・・・と思う。
パターン2-6のフリップに書かれている動きをやるのに、ぼくの中のタイミングと、
アスカの中のタイミングが違うんだ。
「じゃあ、1-1から、各パターン1回ずつのシークェンスで。とりあえずフリップありで行くわね。
二人とも準備はいい?」
しかし、結果は散々だった。
アスカと全くタイミングが合わない。 実戦では相手がどう動くかは予測できない。 そこで、出だしのパターン1-1を除き、MAGIがその場で選択したパターンが、決まったタイミングで指示されて、 それをつないでいく。 そのパターンの最後の小節の頭に、次のパターンが指示されるんだけど、 それに対して準備ができている方が、次のパターンにスムーズに入れる。 それは確かにそうだ。そうなんだけど・・・。
「・・・いや、でもさ、」 |
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「ぶはっ」 ミサトさんがキッチンに向かった後、アスカと打ち合わせをした。 アスカがミサトさんのフリップに詳細なタイミング指定を書き込み、身振り手振りで動きをすり合わせていく。 おかげで、アスカの考えがだいぶ分かってきた。 その作業の途中で、ミサトさんが、ごはんよー、と告げに来た。 メインは、ブリの照り焼きっていうか、タタキっていうか、何とも形容しづらいモノだった。 料理だと思えば、そう見えないこともない。 表面の醤油が黒焦げで、なんとなく、ガンになりそうな。 中は完全に生で、ショウガも何も使ってないらしく、生臭い。 たぶん、冷凍のブリを解凍しないで焼いちゃったんだろう。 これは確かにアスカにはキツいと思う。
「中の方、腐ってるじゃないの、これ」
アスカは、口を漱いでから振り返ると、自分の席には戻らず、ぼくの後ろに立った。 大根と油揚げのお味噌汁(ケチャップ入り)は、臭くて苦かった。他に何を入れたのかは聞きたくなかった。 ぼくは、間違ったことを言ってアスカを傷つけてしまったことを、心底後悔した。 |
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「アスカー、いるー?」 |
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「あー、これはダメ」 リビングでは、夕食後の訓練が始まろうとしていたが、 その前に、書き込みだらけになったフリップを使って問題点を整理していた。 アスカがおにぎりをぱく付きながら、ミサトさんとやり合っている横で、ぼくはお茶を啜っている。
「あんたも何か言いなさいよっ!」
ところが、ぼくは、パターン3-5~3-8と、4の全部がだいぶ怪しくて、ミスばかりしてしまった。 みんな、本当に真剣なんだ。 アスカも、ミサトさんも、ネルフのみんなも。 ぼくだけ、なんだかまだ、実感が湧いてない。 残り時間も限られてるし、頑張らなくちゃいけないはずなのに・・・。 |
◇ |
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アスカの特訓は厳しかった。 ぼくは、アスカの書き込みでいっぱいになったフリップを良く読み直して、一つずつ、頭に叩き込んだ。 何度も繰り返し練習して、ようやく自信が持てたのは、日付が変わって暫くしてからだった。
お風呂に入ってから寝ようと思ってリビングを出ると、アスカが廊下に座り込んで、船を漕いでいた。 アスカの前で、ぼくは初めて、ノー・ミスで通すことができた。 |
| つづく |
| Concertino |