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(原文は、文書ファイルL1-020838-000031-1。2016年8月12日に電子化。)
6月21日 (火)
記録:研究一課 Fritz Schreicher
06:24
覚醒。
527分。NRR 62。脳波正常。
部屋を見回している。
わたしがいるのが分かると、暫く見ていた。
それから何か言おうとしたようだが、目を閉じて頭を押えている。
頭痛がするらしい。
20分ほどで、再び睡眠。
08:05
朝のPhysical Checkと朝食のため、起こす。
101分。NRR 74。脳波、バイタル正常。
朝食を取らせる。
美味しくないらしく、半分近く残す。
薬を服ませようとするが、理解できないようなので、点滴に切替える。
会話はなし。
部屋を見回したり、わたしを見たりしている。
頭痛がするのか、頭を押えていることが多い。
10:22
清拭。会話なし。
12:20
昼食。半分近く残す。
会話なし。
12:56
マヤが様子を見にやってくる。
(そんなに心配ですか? わたしがついてますから大丈夫ですよ。 > マヤ)
マヤがいることは分かったようだが、
我々の日本語の会話には興味を示さず。
会話なし。
13:12
我々の会話が途切れて暫く経ってから、
マヤに向かって「手洗い」と言う(ドイツ語)。
わたしから、尿導管を挿入しているし、
オムツもつけているから、そのまますればいいよ、と、
日本語とドイツ語で説明したが、理解できないらしい。
Nurse Callする。見ぶり手ぶりでどうにか伝える。
その後マヤは業務に戻った。
それ以外の会話はなし。
13:28
ハヤトとDr.松村の回診。
異常なし、だそうだ。
会話なし。
我々の会話が理解できているのかどうかも不明。
13:35
ここはどこかと聞いてきたので、病院だと答えた。
自分はどこが悪いのだと聞いてきたので、
記憶の混乱だと答えたが、これは理解できないらしい。
会話はすべてドイツ語。
13:48
睡眠。
脳波正常。
15:12
覚醒
84分。NRR 68。脳波正常。
いい睡眠だ。
16:17
見舞い客が来る。
客が来たのは分かっているらしいが、終始無言。
30分ほどで帰る。
17:48
どうせ19:00から交替なのに、またもやマヤがやってくる。
マヤに「あなたは誰?」と尋ねたので、
わたしが「自分で思い出すまでは教えられない」と答えた。
会話はすべてドイツ語。
感情の動きは感じられない。
18:00
夕食。
流動食に慣れてきたらしく、ほぼ残さず食べる。
食後に、感情らしきものを現して、「マズい」と言った。
最初の感情が食事の感想とは。本当にマズかったのだろう。
わたしは特に返事をしなかった。
それ以外に会話はなし。
暫くして、また排泄。Nurse Call.
今度は手間取らない。
その間も会話はなし。
19:00
(マヤに交替。頑張って下さい。 > マヤ)
記録:研究一課 伊吹 マヤ
19:10
フリッツさんが帰宅。
それを見計らっていたのか、アスカがわたしに話し掛けてくる。
わたしには、ドイツ語は分からないが、
「惣流 アスカ ラングレー」という語が聞き取れたので、
自分の名前を思い出したとみていいだろう。
カタコトのドイツ語で、
“Ja, ja, heißen Sie Asuka.”(そうよ、あなたはアスカよ)と
言ってみたが、理解できたかどうかは分からない。
わたしの発音が悪いのかもしれない。
暫くして静かになる。
再び頭痛がするのか、頭を抱えている。
19:30
夜のフィジカル。
すべて正常。
20:20
睡眠。
脳波正常。
22:00
消灯。
23:00
依然として脳波正常。
いい睡眠ね。
わたしも休むことにする。おやすみなさい、アスカ。
6月22日 (水)
(この日の記述のみ、原文はドイツ語。電子化の際に翻訳。)
記録:惣流 アスカ ラングレー

わたしは病院にいる。
理由は知らない。

マズい朝食を食べた。
薬をたくさん服んだ。

フリッツが、思い出したことを書けと言った。
でも、思い出すとき、頭が痛い。
わたしの名前は惣流 アスカ ラングレー。

看護婦さんに身体を拭いてもらった。
気持ちいいけど、お風呂に入りたい。

11:00
フリッツが、時刻も書けと言った。
わたしが生まれたのは2001年12月4日だ。

12:30
マズい昼食。
なんでこんなにマズいのか。
また薬をたくさん服んだ。
薬ばっかり。

13:00
気持ち悪くなって吐いた。
すごく疲れた。
手が痛い。
もうやだ。

13:20
女の人がお見舞いに来た。
昨日も来た人だ。
この人は言葉が分からない。
名前を教えてくれない。

13:40
お医者様が来た。
気分はどうかと聞くので、頭が痛いと言った。
あまり一度にたくさん思い出してはいけないと言った。
何のことか分からない。

15:00
昼寝して起きた。
ママの夢を見た。
ママのことを思い出そうとして考える。
そうすると、頭が痛くなる。
その繰り返し。
なんで思い出せないのだろう。
頭が悪くなったのだろうか。

15:20
そういえばママは亡くなったのだった。
悲しくて泣いた。
もしかしたら、わたしの記憶は悲しいことばかりなのかもしれない。
だからフリッツは教えたくないのだろうか。
「意地悪」って言ったのは悪かったかもしれない。

16:10
お見舞いの人が花を持ってきてくれた。
きれいな花だ。
その人も言葉が通じない。
名前も教えてくれない。
フリッツに聞いても教えてくれない。
どうして教えてくれないのか聞いたら、知らないからだと言った。
嘘だと言ったら、嘘だと認めた。
フリッツは本当によく嘘を吐く。
疲れた。
手が痛いのを何とかして欲しい。

17:00
ずっとママのことを考えていた。
ママはとても優しかった。
ケーキを作ってくれた。
歌も歌ってくれた。
一緒にお散歩に行って、公園で遊んだ。
でも、どうしてママが亡くなったのか思い出せない。
せめてこれだけでも思い出せればいいのに。
そういえば、わたしは何歳なんだろう。
今日は2016年6月22日。
ということは、わたしは14歳ということだ。
そうだっけ?
分からない。

18:30
夕食も水みたいな食事。
マズいし、ずっと同じものを食べているので飽きた。
フリッツは無理して食べなくていいと言うので残そうとした。
でも、看護婦さんが、全部食べないと、
美味しいものが食べられるようになるまで時間が掛かると言ったので、
仕方なく食べた。
フリッツは嘘を教えた。
白衣を着ているからお医者様なのかと思っていたが、そうではないそうだ。
騙された。
こいつの言うことを聞いたのはバカだった。
でも、このノートは、お医者様が書けと言ったそうなので、
書き続けることにする。

19:00
このノートは、後でフリッツも読むらしい。
そういうことは先に言うものだ。
フリッツが可哀想だから上の文章を消してあげようと思ったが、
消してはいけないというので、極めて遺憾だが残しておく。
でもフリッツが悪い。

19:20
例の女の人が来て、フリッツは帰った。
その人が、「こんばんは、アスカ」と言ったので、
「こんばんは」と言ったら、驚いていた。
そういえば、この人と話したのは初めてだ。
でも、この人の言葉は少し変だと思う。
ときどき、良く分からなくなる。
それから、その人と話した。
フリッツが何も教えてくれないと言ったら、
わたしは事故に遭って混乱しているので、自分で思い出すまでは、
他の人が余計な事を言わない方がいいのだそうだ。
そうでないと、余計に混乱するらしい。
それならそう言えばいいのに。
女の人に、どんな事故だったのか聞いたが、教えてくれなかった。
思い出そうとすると頭が痛むと言うと、
無理に思い出さない方がいいと言われた。
女の人は、お医者様ではないけど、
お医者様もそう言っていると言ったので、そうすることにした。

19:40
女の人が話していたのは日本語だった。
それで何か変な感じがしたのだ。
しかし、なぜわたしは日本語が話せるのだろう?
そういえばわたしはどこで生まれたのだろう?
ドイツだと思ったのだけど、ここは日本らしい。
思い出そうとしたら、頭が痛くなったので諦めた。

20:00
この日誌の昨日のページを読んだ。
日本語で書いてあるが、わたしには読めない記号も使ってあるので、
全部は分からない。
この女の人はマヤという名前だ。
マヤも後でこのノートを読むそうだ。
なるほど、昨日はわたしが日本語を理解できなかったのか。
混乱という意味がようやく分かってきた。
要するに、全部忘れているわけか。
これから全部思い出せるのだろうか。
マヤは大丈夫だと言った。

20:20
とても頭が痛かったけど、我慢してママの最期を思い出した。
ベッドで泣いていたら、マヤが慰めてくれた。
マヤも、ママの最期を知っているらしい。
それだけではなくて、マヤはわたしのことを良く知っているらしい。
この先思い出すことがこんなに悲しいことばかりだったら
どうしようと言ったら、マヤも泣いてしまった。
とても不安になる。
でも、思い出せないよりはいい。

22:10
マヤは今日もここに泊まるらしい。
どうしてこんなに優しくしてくれるのか聞いてみた。
わたしのことが心配だと言ってくれた。
そんなふうに言ってもらったのはすごく久しぶりのような気がする。
うれしかった。
もう消灯時間を過ぎたので寝ることにする。
おやすみなさい。

6月23日 (木)
記録:惣流アスカラングレー

6:00
まやが、よめるよに、きょうからこののうとは日本ごでかく。

7:30
Fritzがきて、まやとこうかんした。
Fritzも日本ごはなすけど、へただ。
なんでここにいるのかきいたら、わたしのびょうきのみるのと、
つうやくだというので、つうやくのほうはやめさせた。
わたしのほうが日本ごうまいから。

8:30
フィジカル、いじょうなし。
あさごはんはあいかわらずまずいけど、がまんでたべる。
くすりがおおい。
たくさんのくすりをみてたら、だれかおもいだしそうなかんじがしたけど、
あたまがいたくなりかったらやめた。

10:30
漢字を書けないと困るから、Fritzに辞書を持ってこさせた。

11:10
たいくつだ。
Fritzなにかおもしろいことしろと言ったら、
Comedianじゃないですとおこった。
Fritzはわたしがきらいだろう。
わたしもFritzがきらいだ。
どうしてわたしはこんなに苦しむのか?

12:40
たべものが少しよくなった。
米が少しはいてるだけ。でも、水よりはいい。

13:45
きのう来た医者がまた来た。
まつむらという名前で、わたしのCounselorだそうだ。
Counselingなんていいから、わたしの病気を知りたい。
いろいろ聞いたけど、Amnesiaらしい。
Amnesia … 記憶喪失 [noticed by SAL, 12th, Aug. 2016]
Amnesiaなら、思い出すときはすぐに全部思い出すのではないかと聞いたけど、
そういうのとは違うそうだ。
Fritzと同じで、この医者もうそっぽい。
マヤは何でも自信を持ってちゃんと言ってくれるけど、
どうしてこいつらはこうなのか?
それから、もがみという医者から、Rehabilitation Programをもらった。
わたしは長い間寝ていたそうで、力が落ちているそうだ。
たしかに、腕で体をささえることができない。
これからは少しきたえないといけない。

14:30
なんでこんな簡単な運動ができないのか、情けない。
そう言ったら、Fritzが、そのうちできるようになると言った。
今できないから言ってるのに。
Fritzはうるさい。

15:00
昼寝したらしい。
さっき起きた。
ママの夢を見ていた。

15:20
マヤが来て、このノートの書き方について注意を受けた。
日記のように、見たことや聞いたことを後から整理して書くのではなく、
小説のように、時間にそって、感じたことや思い出したことを中心に書くこと。
何を見てそのように感じたのか、何を聞いて何を思い出したのか、
なるべくそういった関係を明らかにすること。
特に、重要なことを思い出した場合は、会話の内容もくわしく書くこと。
これらは、分析のために大事なことらしい。
Digital Voice Recorderももらった。
それから、なるべくありのままを書くように言われた。
でも、Privacyの問題があるので、マヤ以外の人に見せる場合は
あたしの許可を得ることを約束してもらった。
とくに、Fritzには、ぜったいに見せないこと!
ちゃんとここに書くから忘れないで!
それから、日本語でさえあれば書きやすい言葉で書いていいって言ってたけど、
あたしっていつもどんな言葉を使ってたっけ・・・

17:30
きのう花を持って来てくれた男の子がまたおみまいに来てくれた。
「きのうはありがと」って言ったら、笑ってた。
その子が笑った顔を見たら、すごくなつかしい感じがした。
たぶん知ってる子だと思う。
名前を聞いたけど教えてくれない。
どうしておみまいに来てくれるのかも教えてくれない。
あたしが思い出すまで待つって言った。
それで、思い出そうとしたら、頭がすごく痛くなって、
我慢できなくなってしまった。
フリッツが看護婦さんを呼んだ。
注射を打ってもらっている間に、その子は帰ってしまった。
とても疲れた。

19:00
学校にいたときのことを少し思い出した。
でも、なんだかわたしのことじゃないような気がする。
テレビを見ているような感じ。
わたしは頭がよくてスポーツも得意な美少女だった。
でも、あまり楽しい思い出がない。
よくClassmateの男子にいじめられたのを覚えている。
男子は、頭が悪いくせにいばっていてきらいだった。

21:30
Rehabilitationは、思ったよりたいへんだ。
かなり疲れるし、筋肉痛もする。
Programによれば、筋肉痛は、筋肉がついてきている証拠らしい。
喜ぶべきことなのだろうが、痛いものは痛い。

22:00
寝ることにした。
今日はマヤは家に帰るらしい。
ちょっとさびしいけど、我慢する。
おやすみなさい、マヤ。

6月24日 (金)

7:30
今朝から、大学時代のことを思い出していた。
なぜか、それほど頭痛もなく、いろいろと思い出せる。
わたしは計算機工学を専攻していて、ECOOPで発表した論文をもとに
卒業論文を書き上げたはずだ。
指導教官はKurt Fahren教授だった。
しかし、論文の詳細は霧がかかったようでよく思い出せない。
そもそもこれは本当にわたしの記憶なのだろうか?
騙されて他のひとの記憶を読んでいるような気がしてしまう。
わたしが普通のひとよりもかなり頭が良かったのは確かなようだが、
それでも、この年齢で大学なんて卒業できるものだろうか?
ECOOPで発表したということは、英語ができるということだ。
実際、このノートを英訳してみようと思えば、造作もない。
独英日三ヶ国語を自在に操る14歳の少女って、なんだかちょっと凄い。

8:00
フィジカルは異常なし、らしい。

9:00
努力の甲斐あって、どうにか車椅子の乗り降りができるようになる。
ベッドに戻って横になるときには身体中の筋肉が悲鳴を上げるが、
ともかく自分でお手洗いに行けるようになった。

10:00
フリッツが顔を見せた。
今日からはフリッツは通常業務に戻るらしい。
わたしの監視が通常業務でなくて良かった。
こちらもせいせいする。

10:40
大学を出てからのわたしは何をしていたのだろう。
何か大事なことをしていたような気がするのだが。
それは、わたしにとってというよりも、もっと何かずっと重要なことだ。

11時過ぎにマヤが来たので、少し話をした。
それによれば、記述した時刻をいちいち書くのが重要なのではなく、
発生事象とわたしの心理の動きの前後関係を把握するためのものだそうだ。
それならそう言えばいいのに、またしてもフリッツめ!
今後は、記録時刻をいちいち記録するのではなく、
関連事象との前後関係の特定に必要と思える場合だけ書くことにする。
食事やらフィジカル・チェックやらの記述も、今後はいちいちしない。
そこで何かを思い出したとか、必要な場合だけ書くことにする。

マヤが立ち去ってから、昨日までの記述を読み返してみる。
なんだか随分昔に書いたような気がするが、そうではないことも知っている。
不思議な感じだ。
わたしはもう漢字も思い出した。これを書くのにほとんど辞書は必要ない。
でも、こうして読んでいると自分が多くのことを忘れていたことが良く分かる。
稚拙な表現も目立つので修正したいところだが、
日誌の目的を考えればそうしない方がいいだろう。
恥ずかしいことだが仕方がない。
そうだ。21日の夜にマヤに言いたかったのは、
「惣流 アスカ ラングレー って誰?」ってこと。
なぜかその名前が心に引っかかってて・・・。
急に黙ってしまったのは、それがあたしの名前だと言われて、
「そういえば、あたし、自分の名前知らないじゃない」って気がついて、
ショックだったから。
マヤの発音が悪かったんじゃないから安心して。

午後になってまたマヤが来てくれたので、
今日になって急にいろいろと思い出してきた理由を尋ねてみた。
それによると、覚醒時に思い出したことが、睡眠時に固定されるらしい。
「寝る子は育つ」とはこのことか。
いっぺんにいろいろ思い出すと頭痛がするので、
何か気を紛らすものがあるといいのだけど、と言ったら、
後で本を届けると言ってくれた。

その後、Dr.松村のカウンセリングがあり、彼の質問に答えた。
不満なことはないかというので、不満だらけだと言ってやった。
食事はマズいし、身体は思うように動かない。
お風呂に入りたいが、今入ったら溺れてしまいそうだ。
なによりも、思い出したいことを思うように思い出せない。
どれもこれも、不満に思っても仕方のないことではある。
ロールシャハ・テストをやるというので、遠慮した。
彼はわたしが精神医学について何の知識も持っていないとでも
思っているのだろうか。
わたしが彼のテストをしてあげてもいいくらいだ。
しかし、わたしはそれをどこで学んだのだろう?
肝心のことを思い出そうとすると、いつも頭痛がする。

マヤから本が届いた。コミックも入っている。
ありがとう。 > マヤ

本を読んでいたら、いつもの子が、また花を持ってお見舞いに来てくれた。
すてきな花だ。たぶん、そんなに安くないはず。
後からマヤも来て、花瓶に活けてくれた。
その子がお見舞いに来ると決まってマヤが現れるということは、
監視カメラでもついてるってこと?
正直に白状した方が身のためよ。 > マヤ

最初に、わたしのリハビリの進捗について話した。
まだ歩けないと言ったら、かなり残念そうな顔をした。
わたしのことを本当に心配してくれているらしい。
うれしかった。
それから、わたしがこれまでに思い出したことについて、少し話した。
大学に行っていたことや、何か大事なことをやっていたらしいこと。
その子も、わたしのことをかなり知っているようだ。
DVRからリファーしておく。
「あたしね、けっこういろいろ思い出したのよ。
まず、あたし、大学を出てるのよね」
「うん」
「あれ? 知ってたの?」
「うん。まあね」
「ふーん、じゃあさ、あたしが何やってたか知ってる?」
「えーと、なんだろ?」
「うーん、それがいまいちはっきりしないのよね~。
何か大事なことだったと思うんだけど・・・。
仲間がいてね、そのひとたちと一緒に何かやってたのよね。
その中でも、あたしがいちばん責任重大な役目だったような
気がするんだけど・・・、どう?」
「うん、かなり合ってるんじゃないかな」
「なんだろ? なんかのスポーツかな・・・」
その子は声を上げて笑った。
わたしが思い出せなくて苦しんでいるというのに失礼な話だ。
しかし、ということは、スポーツではないのだろうか。
わたしのおかげで連戦連勝だったような気がするのだが。
正直なところ、このあたりの記憶は自分のことのような気がしないので、
違っているのかもしれない。

その子は、わたしがいろいろ思い出したことを話すと、
まるで自分のことのように、とてもうれしそうに聞いてくれる。
なにか、その子を見ているだけで、もっと多くのことを思い出せそうに思う。
そう言ったら、これからも毎日来ると言ってくれた。

それから、わたしのことはあまり話せないので、その子の話を聞いた。
ここは「松代」というところで、その子はこの病院の近くに住んでいる。
そして、「長野」にある中学校に通っている。
「松代」という地名は何かで聞いたような気もするが、思い出せなかった。
学校の様子を聞いてみたが、その子は学校が好きではないらしく、
あまり教えてはくれなかった。
趣味も聞いてみたが、教えてくれなかった。
趣味がないということはないだろうから、恥ずかしかったのかもしれない。

それから、学校の勉強のことを聞いたり、
宿題が分からないと言うので、少し見てあげたりした。
前にもこんなことをしてあげた気もするのだが・・・、
他の子にだったかもしれないし、気のせいかもしれない。

もう少しいろいろと話がしたかったのだが、疲れてしまった。
それに、いろいろと思い出したいことがあった。
思い出すときは頭痛がするので、その子がきっと心配するだろう。
だから、その子が帰ってから思い出すことにした。

ところで、マヤにも一緒にいて欲しかったんだけど、
お花を活けたらどっかに行っちゃったわよね。
なんだか緊張するから、今度からは二人きりにしないでね。 > マヤ

つづく