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7:30
今朝から、大学時代のことを思い出していた。
なぜか、それほど頭痛もなく、いろいろと思い出せる。
わたしは計算機工学を専攻していて、ECOOPで発表した論文をもとに
卒業論文を書き上げたはずだ。
指導教官はKurt Fahren教授だった。
しかし、論文の詳細は霧がかかったようでよく思い出せない。
そもそもこれは本当にわたしの記憶なのだろうか?
騙されて他のひとの記憶を読んでいるような気がしてしまう。
わたしが普通のひとよりもかなり頭が良かったのは確かなようだが、
それでも、この年齢で大学なんて卒業できるものだろうか?
ECOOPで発表したということは、英語ができるということだ。
実際、このノートを英訳してみようと思えば、造作もない。
独英日三ヶ国語を自在に操る14歳の少女って、なんだかちょっと凄い。
8:00
フィジカルは異常なし、らしい。
9:00
努力の甲斐あって、どうにか車椅子の乗り降りができるようになる。
ベッドに戻って横になるときには身体中の筋肉が悲鳴を上げるが、
ともかく自分でお手洗いに行けるようになった。
10:00
フリッツが顔を見せた。
今日からはフリッツは通常業務に戻るらしい。
わたしの監視が通常業務でなくて良かった。
こちらもせいせいする。
10:40
大学を出てからのわたしは何をしていたのだろう。
何か大事なことをしていたような気がするのだが。
それは、わたしにとってというよりも、もっと何かずっと重要なことだ。
11時過ぎにマヤが来たので、少し話をした。
それによれば、記述した時刻をいちいち書くのが重要なのではなく、
発生事象とわたしの心理の動きの前後関係を把握するためのものだそうだ。
それならそう言えばいいのに、またしてもフリッツめ!
今後は、記録時刻をいちいち記録するのではなく、
関連事象との前後関係の特定に必要と思える場合だけ書くことにする。
食事やらフィジカル・チェックやらの記述も、今後はいちいちしない。
そこで何かを思い出したとか、必要な場合だけ書くことにする。
マヤが立ち去ってから、昨日までの記述を読み返してみる。
なんだか随分昔に書いたような気がするが、そうではないことも知っている。
不思議な感じだ。
わたしはもう漢字も思い出した。これを書くのにほとんど辞書は必要ない。
でも、こうして読んでいると自分が多くのことを忘れていたことが良く分かる。
稚拙な表現も目立つので修正したいところだが、
日誌の目的を考えればそうしない方がいいだろう。
恥ずかしいことだが仕方がない。
そうだ。21日の夜にマヤに言いたかったのは、
「惣流 アスカ ラングレー って誰?」ってこと。
なぜかその名前が心に引っかかってて・・・。
急に黙ってしまったのは、それがあたしの名前だと言われて、
「そういえば、あたし、自分の名前知らないじゃない」って気がついて、
ショックだったから。
マヤの発音が悪かったんじゃないから安心して。
午後になってまたマヤが来てくれたので、
今日になって急にいろいろと思い出してきた理由を尋ねてみた。
それによると、覚醒時に思い出したことが、睡眠時に固定されるらしい。
「寝る子は育つ」とはこのことか。
いっぺんにいろいろ思い出すと頭痛がするので、
何か気を紛らすものがあるといいのだけど、と言ったら、
後で本を届けると言ってくれた。
その後、Dr.松村のカウンセリングがあり、彼の質問に答えた。
不満なことはないかというので、不満だらけだと言ってやった。
食事はマズいし、身体は思うように動かない。
お風呂に入りたいが、今入ったら溺れてしまいそうだ。
なによりも、思い出したいことを思うように思い出せない。
どれもこれも、不満に思っても仕方のないことではある。
ロールシャハ・テストをやるというので、遠慮した。
彼はわたしが精神医学について何の知識も持っていないとでも
思っているのだろうか。
わたしが彼のテストをしてあげてもいいくらいだ。
しかし、わたしはそれをどこで学んだのだろう?
肝心のことを思い出そうとすると、いつも頭痛がする。
マヤから本が届いた。コミックも入っている。
ありがとう。 > マヤ
本を読んでいたら、いつもの子が、また花を持ってお見舞いに来てくれた。
すてきな花だ。たぶん、そんなに安くないはず。
後からマヤも来て、花瓶に活けてくれた。
その子がお見舞いに来ると決まってマヤが現れるということは、
監視カメラでもついてるってこと?
正直に白状した方が身のためよ。 > マヤ
最初に、わたしのリハビリの進捗について話した。
まだ歩けないと言ったら、かなり残念そうな顔をした。
わたしのことを本当に心配してくれているらしい。
うれしかった。
それから、わたしがこれまでに思い出したことについて、少し話した。
大学に行っていたことや、何か大事なことをやっていたらしいこと。
その子も、わたしのことをかなり知っているようだ。
DVRからリファーしておく。
「あたしね、けっこういろいろ思い出したのよ。
まず、あたし、大学を出てるのよね」
「うん」
「あれ? 知ってたの?」
「うん。まあね」
「ふーん、じゃあさ、あたしが何やってたか知ってる?」
「えーと、なんだろ?」
「うーん、それがいまいちはっきりしないのよね~。
何か大事なことだったと思うんだけど・・・。
仲間がいてね、そのひとたちと一緒に何かやってたのよね。
その中でも、あたしがいちばん責任重大な役目だったような
気がするんだけど・・・、どう?」
「うん、かなり合ってるんじゃないかな」
「なんだろ? なんかのスポーツかな・・・」
その子は声を上げて笑った。
わたしが思い出せなくて苦しんでいるというのに失礼な話だ。
しかし、ということは、スポーツではないのだろうか。
わたしのおかげで連戦連勝だったような気がするのだが。
正直なところ、このあたりの記憶は自分のことのような気がしないので、
違っているのかもしれない。
その子は、わたしがいろいろ思い出したことを話すと、
まるで自分のことのように、とてもうれしそうに聞いてくれる。
なにか、その子を見ているだけで、もっと多くのことを思い出せそうに思う。
そう言ったら、これからも毎日来ると言ってくれた。
それから、わたしのことはあまり話せないので、その子の話を聞いた。
ここは「松代」というところで、その子はこの病院の近くに住んでいる。
そして、「長野」にある中学校に通っている。
「松代」という地名は何かで聞いたような気もするが、思い出せなかった。
学校の様子を聞いてみたが、その子は学校が好きではないらしく、
あまり教えてはくれなかった。
趣味も聞いてみたが、教えてくれなかった。
趣味がないということはないだろうから、恥ずかしかったのかもしれない。
それから、学校の勉強のことを聞いたり、
宿題が分からないと言うので、少し見てあげたりした。
前にもこんなことをしてあげた気もするのだが・・・、
他の子にだったかもしれないし、気のせいかもしれない。
もう少しいろいろと話がしたかったのだが、疲れてしまった。
それに、いろいろと思い出したいことがあった。
思い出すときは頭痛がするので、その子がきっと心配するだろう。
だから、その子が帰ってから思い出すことにした。
ところで、マヤにも一緒にいて欲しかったんだけど、
お花を活けたらどっかに行っちゃったわよね。
なんだか緊張するから、今度からは二人きりにしないでね。 > マヤ
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