結核性大腿動脈瘤」
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  結核性大腿動脈瘤の一例

       稀有なる症例     

初めに

今日結核感染による血管病変は稀であるといわれる。そのなかでも比較的多いとされる結核性大動脈瘤であっても手術例は1999年までに41例の報告をみるのみである。今回更に稀とされる結核性大腿動脈瘤を経験したので若干の考察を加えて報告する。

症例

患者 79歳、男性。

家族歴 特記事項なし

既往歴 胆石にて手術(平成10年4月16日)

現病歴 平成10年12月30日より左大腿部に放散する腰痛が出現した。翌年になって某院受診し、腹部単純写真 CTにより脊椎カリエス、腸腰筋膿瘍の診断が下されドレナージが行われた。しかし膿瘍は無く暗赤色の血液が吸引されるのみであった。しかし結核菌が直接証明され更に喀痰からも結核菌が検出され薬物療法目的で専門病院に搬送された。 約2ヶ月間薬物療法が行われ、喀痰塗抹染色が陰性となり退院するが、腰痛がむしろ増強し当院整形外科紹介となった。

現症 左下腹部-大腿部に硬結を触れ左大腿背面には皮下出血を認めた。大腿部での周径差は8cmあり、右下肢の挙上不可の状態であった。   

一般検査 RBC245万 Hb 6.5 Ht21.2%と貧血を認めた。腎機能、肝機能異常なく糖尿病、出血傾向はなかった。

入院後の経過 入院後直ちにCTが行われ再び腸腰筋膿瘍と診断された。更に発熱が続いたため膿瘍切開術が施行された。しかし膿瘍はなく凝血塊のみ存在しこれを可久的に除去すると奥から動脈性の出血が認められた。出血源は同定できず圧迫止血し手術を終了した。この凝血塊からは培養で結核菌は証明されなかったが、PCR法では陽性であった。その後約一ヶ月間ベッド上安静としたが、CTでも腫瘤の増大傾向が無く軽度の疼痛をみるのみであったためリハビリが開始された。しばらくは問題なく経過したが、7月20日再び大腿腫脹が増大し更に発熱を伴うようになった。やはり膿瘍の疑いが捨てきれず8月10日再度ドレナージ手術を行うが、やはり膿瘍でなく血腫であり活動性の結核病巣は否定的となった。そしてここで初めて血管病変が疑われ、DSA行うと大動脈腸骨動脈の動脈硬化性変化、左浅大腿、深大腿動脈閉塞と共に左総大腿動脈瘤が認められた。ABIは特に左で0.32と低く高度の虚血肢であった。また腸腰筋膿瘍の原因として終始疑われていた脊椎カリエスは骨シンチ、MRIから否定的であった。循環動態が安定していることから緊急手術はせず、整形手術時並びに再度喀痰結核菌の培養結果が陰性であることを確認後手術を行うこととした。

手術

まず左下腹部より腹膜外経路で外腸骨動脈をコントロールし、続いてそけい部に皮切をおき瘤のコントロールを行った。瘤は周囲組織との炎症性癒着が高度であり、また瘤底部は腸腰筋に連続しておりここから筋内に破裂したものと思われた。腸腰筋内には空洞が形成されておりここから指を入れると多量の古い血栓が排出された。瘤切除を行いここに径8mmGelsoftリング付グラフトを用いて解剖学的にバイパス手術を行った。

動脈瘤は20×20mmの仮性瘤であった。病理検索では瘤壁には正常血管壁を構成する構造は無く、ラ氏型巨細胞と乾酪壊死を伴う特異的な肉芽組織がみられ結核性動脈瘤と診断された。

術後一時graft周囲の貯留液よりMRSAが検出されたが持続洗浄により治癒した。DSACTを行ったが吻合部に問題なく、腸腰筋の血腫も縮小した。また腸腰筋は萎縮し機能廃絶状態になったが、安静時の虚血症状は無く術後 ヶ月で無事退院した。

 

考察

  過去報告された結核性大腿動脈瘤の症例を提示した。また下段には1例のみであるが膝窩動脈瘤の報告例を示した。過去100年間に英文で報告されたものは9例のみでうち明らかな瘤形成のものは8例であった。総大腿動脈瘤が3例、浅大腿動脈瘤が5例であった。多くは他に結核病変を有し、特に粟粒結核を伴うものが5例見られた。

発生機序は、結核性動脈瘤ではその75%が原発性であると言われるのに対して、大腿動脈瘤では潜源性、すなわち血流中の結核菌が内膜損傷部より壁内に侵入するといわれるものが8例中6例、と多かった。本症例も粟粒結核を伴い、また瘤周囲に結核病変は無く、初めに潜源性に動脈瘤が形成されこれが腸腰筋内に破裂したものと思われた。

予後に関しては、結核性動脈瘤でも悪さを指摘する報告が多いが、大腿動脈瘤でも、9例中6例が死亡しており、やはり予後は悪いと思われた。ただ血管病変で死亡するわけでなく多くは現病の結核が死因となっており、重症な菌血症、ホストの免疫力の著しい低下の結果であると思われた。要はこのような症例に血管病変が合併してくるわけである。

術式に関しては古い症例が多く、比較の意味は少ないが、切除や結紮のみで再建例は最近報告の一例のみである。またバイパスがすでに一般的である80年以降の2例でも本症例の如く人工血管置換による再建例はない。再建に関しては本例は末梢病変が強く再建必須と考えられた。人工血管の使用については一般に感染がある場合その使用は禁忌と考えられるが、なぜか結核性動脈瘤での報告では人工血管置換によるトラブルは少なく良好な結果が得られたとの報告が多い。一般細菌との相違は明らかではないが、急性感染症というよりは、慢性炎症を呈する結核に関しては、十分な薬物療法で全身的に菌を抑制すると同時に、局所に活動性病巣がなければ人工物の使用は必ずしも禁忌ではないようである。

結語をスライドに示しましたが、現在世界的に見て結核は流行の傾向を見せており、わが国でも罹患率は増加傾向にあるといわれている。結核性血管病変の外科的治療の適応例も今後増加する可能性があり、その基本的な治療方針を決めておくことが重要と思われた。

 

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