タイトル『そー7日ーはラッキーセブンの日』
作・ランジェロ
クラブハウスは宵闇を迎えていた。
そう、俺は、彼女を待っていたんだ。
2008年2月26日、俺達ZEFはそーなのかー杯決勝トーナメント2回戦で敗れ去った。
半年振りの予選リーグ突破。
それだけでも十分喜ばしい事ではあったし、事実、監督としての俺のクビが繋がったという厳然たる事実がそこにはあった。
それは間違いない。胸をなでおろして、結果を受け入れるべきだったはず。
…だけど、俺達はその気持ちに整理をつけられないままだった。
もっとやれただろう、もっと上にいけたはずだ。あのワンプレー、あの判断…
それぞれの悔いが、それぞれの心の底に澱のように溜まっていく。
それは勿論、監督である俺も同じだった。
このチームのエースだったルーミアは、尚更その気持ちが強かったはずである。
いつも天真爛漫に振る舞い、チームメイトを知らず知らずのうちに励ましていた彼女。
どれだけ俺もあの屈託のない笑顔に勇気付けられた事だろう。
この大会には、チーム内の士気を考慮して俺の嫁である霊夢は起用しなかった。
これは東方サッカー監督としての、プロフェッショナルな判断だ。
どうだ、この冷徹な決断力は。ファビオ・カペッロもエメ・ジャッケもアーセン・ベンゲルも真っ青だぜ、フッ…。
ああ、ちなみに嫁のいない隙にルーミアにちょっかいを出そうとか、そういう魂胆では当然ない。
ルーミアはまだまだ子供だろ?俺だって分別ある大人だ。幼女に手を出すような事はしない、幼女にはな…うん、大丈夫だ。
そして、それは今からも同じだ。
俺は頑張った彼女へのせめてもの労いとして、ルーミアを食事に誘ったんだ。
彼女がどれだけ食べるのか全くわからないが…まぁ選手のモチベーションを保つためにこういう場を設けるのも監督の役目だ。
下心はない。多分…。
「待ったのかー?」
聞きなれた声に振り向くまもなく、俺に飛びついてくる黒い影。
何のためらいもなく俺の胸をめがけて飛び込んできたそれは、顔はわからずともはちみつの様な明るい金の髪で気付く。ルーミアだ。
ふわっ、と鼻をくすぐるいい匂いがした…まずいぜ、心までくすぐられている。
「わっ…お、おまえ、こんな所で抱きつくなよ!」
精一杯の理性を振り絞って、俺は制止する振りをした…そう、振りだったんだ、今考えると。
「だって、今日は監督とデート出来るから嬉しいのかー」
オーダーメイドのモッズスーツに身を包んだ俺の胸に顔をうずめたまま、何のためらいもなく、こちらが考えもつかないような言葉をぶつけてくるルーミア。
そう…その無垢さが、俺には受け止められないくらいの速さの直球にしか思えないんだ。
「あ、あのな…デートじゃなくて、俺はお前を労う意味で…」
「なんでもいいから、今日だけは二人っきりだから嬉しいのかー…」
…まただ。
こんな言葉を俺にぶつけて、彼女は俺の反応を楽しんでいるのだろうか?
いや、仮に騙されていたっていいさ。ここまで言われて済ました顔をしていられるほど、俺はハードボイルドでもなかった。
「ル、ルーミア…お、俺は…」
「いいから、まずはキスするのかー!」
「!!??」
「ほら、早くするのかー…」
そう言って目を閉じた、端整だけど幼さの残るルーミアの表情に、俺は…
…あれ?
何だか頭が割れるように痛いぞ。
いや、頭だけじゃない、全身が軋んでいる。痛みのない箇所を探す方が困難だ。
それにこの赤いものは何だ…?妙に生暖いが…もしかして、血か?
俺とルーミアの、キ、キ、キスは…
「気絶してる最中に、妄想語るのやめてくれない?気持ち悪いんだけど」
いつもの声。気が強いというような次元を遥かに超えた、俺を責め苛む、いつものあの声。
…ああ、そうか。
俺は、夢を見ていたんだ。これが、俺の現実。
第四回適当記念、俺達は戦前の予想を覆し、ベスト8で敗退した。
状況はあの時…そう、そーなのかー杯と似ている。
ただ一つ違うのは、あの時以上に俺達は優勝を欲していたんだ。そう、まぎれもなく本気で。
俺が、3姉妹が、カナが、エリーが、ジャックが。勿論名無しもだ。
特に箸休め杯で屈辱を味わった妖夢は、リベンジを果たそうと目の色が違っていた。
…そして、どうやら霊夢もそれは同じだったらしい。
もっとも、主に優勝賞金とそれに伴うチームからのボーナスがその要因だが…
優勝が現実味を帯び始めた決勝トーナメントに入ってから、ZEF結成後初と言っていい大爆発。
しかし、それでも届かなかったZEF。それでいたくご立腹というわけだ。
当然のように、霊夢の婿である俺が八つ当たりの標的になっているのさ。
「ねぇ、婿って誰が?誰が私の婿ですって?それにさっきも嫁がどうとか言ってたわよね…」
「ひいっ…いや、そんなことは一言も…」
「ふーん…嘘つくんだ?私相手に?」
「あ………おっ、俺が霊夢の婿で、霊夢が俺のよめええEEEEEEEEE!!!!!」
痛い。
現実とは痛みを伴うものなんだ。決して夢物語などではないんだ。
…そうだ、もう一度目を閉じよう。
そうすれば、あの優しいルーミアが俺を迎えてくれる。
それにきっと、夢の中では霊夢も俺の望んだとおりの、かわいくて頼もしい巫女の姿のままだろう。
もう一度、目を閉じれば…
「はぁ、スッキリした。とりあえず今日はこの辺にしといてあげるわ」
それにしても、コイツは一体何のつもりなんだ…
嫁とか婿とか言う前に、俺はチームの…ZEFの監督なんだぞ?
「…ああ、また気絶する前に言っておくけど、適当記念であそこまでいけたのは、アンタの采配が冴えたから…だなんて誰も思ってないわよ」
「…………は?」
「とにかく私が頑張ったから。まぁ…あとついでに妖夢と3姉妹が頑張ったから。世間のイメージなんてその程度よ?アンタなんか誰も話題にしてないから、勘違いしない事ね」
「………………」
呆れて言葉が出てこなかった。
俺のボキャブラリーから必死に霊夢に反論する言葉を捜す…が、適当な言葉は出てこない。
霊夢に何か言ってやりたい。俺のこの憤りをぶつけてやりたい…が、こいつを愛しているのは、誰であろう、俺なのだ。
感情が狭い出口から、我先にと争って俺の口から吐き出されそうとしている。
それを必死に抑えながら、俺はこう言うしかなかった。
「そーなのかー…」
毎月7日、ルーミアの日、おめでとう。